女性の下腹部痛の鑑別診断
腹痛の評価には、痛みのメカニズムの理解、commonな原因の鑑別、そして典型的パターンと臨床症状の認識が必要とされる。今回下腹部の部位別の主な腹痛の鑑別疾患を挙げ、さらに女性特有の腹痛をきたす疾患を挙げた。
右下腹部 |
下腹部 |
左下腹部 |
びまん性 |
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虫垂炎 |
初期の虫垂炎 |
憩室炎 |
胃腸炎 |
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卵管炎 |
胃腸炎 |
卵管炎 |
腸管虚血 |
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子宮外妊娠 |
腸閉塞 |
子宮外妊娠 |
腹膜炎 |
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鼠径部ヘルニア |
破裂性大動脈瘤 |
鼠径部ヘルニア |
マラリア |
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腎結石症 |
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腎結石 |
家族性地中海熱 |
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炎症性腸疾患 |
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過敏性腸症候群 |
腸閉塞 |
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腸間膜リンパ節炎 |
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炎症性腸疾患 |
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過敏性腸症候群 |
女性特有の腹痛の原因疾患
・急性
骨盤内炎症性疾患 症状:発熱(感度50%)、不正子宮出血(約1/3)、下腹部のびまん性圧痛、反跳痛、腸蠕動音減弱
(文献2) 診断:下腹部痛に加えて、以下の内1つ以上
①生検による子宮内膜炎か急性卵管炎の組織学的証拠、
②淋菌あるいはC. trachomatisの証明
③腹腔鏡または開腹で卵管炎の確認
④上部生殖管から病原菌の分離
⑤他に原因のない炎症性/化膿性の腹水
子宮外妊娠 症状:腹痛(感度99%)、無月経(74%)、性器出血(56%)
(文献3) 診断:経膣超音波検査、血清hCG
子宮筋種 症状:異常な子宮出血、骨盤の圧力と痛み、性機能障害
(文献4) 診断:経膣超音波検査(感度95~100%)、子宮鏡検査、MRI、子宮卵管造影
・慢性
月経困難症 思春期の女性の60~93%が経験する。
(文献5) 原発性 症状:月経開始と同時あるいは直前から、下腹部に限局した繰り返す痙攣性の鈍痛が起こり、 12~72時間かけて徐々に減る。その他、悪心、嘔吐、下痢、倦怠感、背部痛、 頭痛、めまいなど
診断:続発性の除外、臨床症状のある女性
続発性 原因:子宮内膜症、腺筋症
子宮内膜症 症状:骨盤痛、月経困難症あるいは月経過多(感度73%)、強い性交疼痛症、腸・膀胱症状
(文献6,8) 診断:腹腔鏡検査
子宮腺筋症 症状:重度の月経出血(感度60%)、月経痛(感度25%)、約三分の一が無症状
(文献7) 診断:摘出した子宮の組織診(確定診断)、MRI、経膣超音波(感度83%、特異度85%)
・診断へのアプローチ(文献8)
痛みの性状、部位、放散、程度の増減などを含む詳細な病歴を取る。特に性器出血、性交渉、排便、排尿、運動、食事などとの関係は、十分に聴取すべき病歴である。詳細な月経歴は妊娠の可能性を評価するのに必須の情報である。疼痛が慢性か急性か、間欠的か持続的かを明らかにすることは、その後の検査を方向づける。病歴聴取と同様,診察にも十分な時間を費やすべきである。腹部徴候は軽度でも一貫した症状を伴うなら,重要な意味をもつ場合がある。骨盤や直腸診における圧痛は,他の腹部徴候がない場合でも,例えば穿孔した虫垂炎,憩室炎,卵巣嚢胞捻転,その他多くの原因により手術の適応となることがある。
生化学検査は腹痛患者の評価に非常に有用な場合もあるが,一部の例外を除いて,それによって診断が確定することはまずない。腹腔鏡検査は,特に骨盤内の状態,例えば卵巣嚢胞卵管妊娠,卵管炎,急性虫垂炎などを診断する際に有用である。
参考文献:UpToDate ①Differential diagnosis of abdominal pain in adults ②Clinical features and diagnosis of pelvic inflammatory disease ③Clinical manifestations, diagnosis, and management of ectopic pregnancy ④Epidemiology, clinical manifestations, diagnosis, and natural history of uterine leiomyomas (fibroids) ⑤Primary dysmenorrhea in adolescents ⑥Pathogenesis, clinical features, and diagnosis of endometriosis ⑦Uterine adenomyosis
⑧ハリソン内科学第3版
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