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今週は岩岡秀明先生と勝俣範之先生と対談。とても勉強になりました。そのとき、当直のお話がでました。
今でも当直明けで外来やったりオペやってるドクターは多いです。院長や部長は自分は当直入らないので、この件には無関心。逆に当直今でもやってる院長・部長だと「俺達の若い頃はもっとがんばってた」とか言い出してかえって逆効果だったりして。
「悪魔の味方」にも書きましたが、アメリカでも昔は週100時間以上労働は当たり前、当直後もバンバン仕事してました。しかし、睡眠不足で判断を誤った研修医のために患者が死にいたり、その患者の父親が訴訟を起こして事態は一変します(ジオン事件)。
ぼくがアメリカの研修医だった頃、同僚の一人が「血小板減少」の患者に「FFP」を投与して、その患者が死に至ったことがありました。ぼくの上司は夜中にPEの患者にヘパリンではなくTPAをオーダーしそうになってました。睡眠不足時の判断力は知識や技能とは無関係に劣化します。
かくいう僕も、当直明けに運転して追突事故を起こしたことがあるし(友人の車でしたあ、ゴメン)、外来で「高カリウム」の患者に「カリウム」を投与したことがあります。はっと我に帰って慌てて患者を止めてことなきを得ました。「こういう仕事のやり方では、いつか患者を殺す」と戦慄しました。
海外でも同様の事例はあるようです。
以来、亀田でも神戸大病院感染症内科でも、当直明けの業務は「禁止」しています。権利ではありません、医師の義務です。パイロットがオーバーワークになるのを禁止されているように。患者を殺さないためです。
いままで直明けで勤務しても大丈夫だよ、という猛者なドクターも多いでしょう。でも、そういう猛者は福島第一原発を思い出すべきです。問題が起きていないから、ポテンシャルな問題を放置すると、取り返しがつかないことになります。
我々医師のシンプルエラーは直接人命の喪失につながります。我々は、この世界に慣れてしまっているのでそのことのもつ大きな意味を忘れています。睡眠不足が引き起こすエラーは「想定外」の事故ではありません。起こしてから、取り戻せるものでもありません、ときに。
こういうと、「でも現実には無理無理」と言われてしまいます。でも、それはゴールから逆算して方法を検討しないからなのです。これは日本人の思考の悪弊です。風疹ゼロをゴールにして逆算すればいくらでも方法があるのに、「風疹増えたから、ワクチンと検査どうしようか」となるから、構造的に失敗する
当直明けの外来は休めない、絶対に休めない、という人も、学会に行くときは外来閉じます。海外に行くときはもっと閉じます。大学院に行ったり、留学したり、他の病院に何年か出向したり。あるいは病気になったり。医師はいろいろな理由で停滞したり、休憩したりします。
確かに日本は病院が多いし、OECDでの医師数も少ないですが、最低というわけでもありません。他国ではできていることが、「日本でだけ出来ない」というのは根拠薄弱です。できるために、削り取らねばならないものを削ってないだけなんです。
どちらかというと、出来ないに決まっている。という結論ありきなんですね。でも、患者が死んで、訴訟を起こされて、裁判に引っ張りだされた時に失う時間の巨大さを考えると、「急がば回れ」とぼくは思います。
それは足下にある極めてリアルなリスクです。21世紀の患者さんは、前世紀と違ってさほど寛容ではありません。
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