日本人の患者は本当に検査が好きです。医者も検査が大好きです。
人口1000人あたりのCT検査数は年間121.5件、MRIが44.8件で諸外国より図抜けて多いです。もっとも、実はアメリカ人はもっと多いのですが。
CTは要するに、「ハイテクを使ったレントゲン写真」なので、放射線曝露があります。一回に尽き、10mSvくらい(種類によりますが)。2回受けただけで、年間許容被ばく線量基準にいたってしまいます。
その検査が本当に必要ならば、やむを得ない曝露ですが、必要ないのにこういう検査をするのはいただけません。
また、CTでもMRIでも造影剤を使うことがありますが、この造影剤そのものの副作用に苦しむ患者さんもいます。例えば、前者においては造影剤は腎臓を悪くする副作用がありますし、MRIの造影剤(ガドリニウム)は、とくに腎臓が悪い人に全身の硬化症という副作用を起こすことが知られています。
画像検査は決してリスクフリーではないのです。
日本医学放射線学会と日本放射線科専門医会・医会は「画像診断ガイドライン2013年度版」(金原出版)の中で、不要な画像検査をまとめています。
例えば、
・小児の軽度の頭部外傷においては、リスクが低い場合にはCTを行なうべきではない。
・神経脱落症状(マヒとか)のない一次性頭痛(片頭痛など)に対して、CTやMRI、の有用性は非常に低く、推奨しない。
・非高危険群(リスク高くない人)に対し、低線量CTによる肺がん検診は科学的根拠がないので、対策型検診(集団に行なうもの)としては勧められない。また、高危険群であっても十分な科学的根拠はない。
・無症状の患者に冠動脈(心臓の動脈)造影CTの有用性を示す根拠がなく、推奨しない。
・急性虫垂炎(いわゆる盲腸)では、成人においてどのような患者に画像診断が必要か明確なデータは存在しない。CTを行う場合も、単純CTでよいか、造影すべきか、また適切な撮像範囲やスライス厚などについてのコンセンサスはない。
・合併症を伴わない成人の急性腎盂腎炎患者に対して、ただちに単純または造影CTを施行することは推奨しない。
(以上、括弧内岩田。若干文章整理しています)。
どうでしょうか。どの病気の診断にどの画像検査が適切か、十分に考えて医者はCTやMRIをオーダーしているでしょうか。
先日、ある病院でちょっと良かった話。ある研修医が肺炎を疑い、レントゲンを撮る(実際に撮ったのは検査技師さんで、研修医はオーダーしただけですが)。肺炎像があるので、CTを撮る。そうしたら、放射線科のレポートで、「明らかな肺炎がわかっているのにわざわざCTを撮る理由を吟味してください」とメッセージ。
こういう議論が科の垣根を超えて自由にできる病院は、良い病院です。他者の言葉に耳を傾けてこそ、医者の成長があるからです。
とはいえ!
実は、「CT撮ってください」「MRIを必要だと思うんですが」と訴えてくるのは、案外、患者の方だったりします。
例えば、
両手、両足がしびれるのでMRIを撮って欲しい。
立ち上がったら急に目の前が暗くなったのでCTを撮って欲しい。
みたいな、感じです。
医者の皆さんならすぐに気づいたと思いますが、こういう訴えは「頭のなか」が原因でないことが多いです。前者は末梢ニューロパチーなどが原因となり、後者は意識消失発作で、心臓の病気がないことを確認に行きます。だから、頭のCTとかMRIは意味ないんですね。ちゃんと患者さんにそう説明することが肝心です。
繰り返します。CTもMRIも患者にリスクを強いる検査です。そのリスクを凌駕するような「価値」を見出さなければ、撮影するべきではありません。ぼくはよくジョークで言うのですが、CTはオーダーした医者が患者と抱き合って一緒に撮影されてはどうか。そしたら、たぶん検査数は激減すると思いますよ、うん。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。