注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
学生さんのレポートです。他にも、ACEIが入ってたら、別のアウトカム出てたんじゃないの、とか平均血圧上と下が、始めも終わりもぴったり同じなんていくらなんでも都合よすぎない?とか突っ込みどころは多いです。データの捏造がなくても、「へんだ」と思うべきなのです。プロの医者なら、「ノバルティスにだまされた」なんて言ってはいけないのです。騙されるのは、プロ的にデータを吟味しなかった、アマチュアなのです。
高血圧治療において、降圧剤を使用する目的は、血圧の数値を低下させること自体にあるのではなく、血圧を低下させた結果、脳卒中等の心血管イベントの発生率を低下させるなど、予後を改善することにある。
降圧剤の中でもアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、2012年の国内医療用医薬品市場1)の製品別売上1位・2位を占めたことからわかるように、日本ではよく使用されている。
そのARBの一つであるバルサルタンの臨床試験を巡る動きが昨今の医療界を騒がせている。ここではその中のKYOTO HEART Study2)について述べる。
2000年にバルサルタンが発売された後、2004年から京都府立医科大学チームによりKYOTO HEART Studyが開始された。対象は、≧20歳かつARB以外の降圧剤を服用しているにもかかわらず≧140/90mmHgが4週間以上持続しており、冠動脈疾患(狭心症または>6か月前の心筋梗塞)、脳血管疾患(>6か月前の脳卒中または一過性脳虚血発作)、末梢動脈閉塞性疾患(四肢のバイパス術・血管形成術施行または四肢の潰瘍・壊疽、間欠性跛行)、1つ以上の心血管リスク因子(2型糖尿病、現在の喫煙、脂質異常症、肥満、左室肥大)のうち、1つ以上をもつ高リスク患者3031例である。ランダム化以前にARBによる治療を受けた患者や、過去6ヵ月に心不全悪化または不安定狭心症、心筋梗塞、PCI、CABGの既往をもつ患者は除外されている。
その3031例をバルサルタン追加群の1517例と非ARB群の1514例の2群に分けて治療を行った。バルサルタン追加群ではバルサルタン80mg/dayを4週間投与し、降圧目標(<140/90mmHg、糖尿病または腎疾患合併患者では<130/80mmHg)に達しなければ2倍量に増量してさらに4週間投与し、それでも降圧不十分であればARBとACE-I以外の降圧剤を追加している。非ARB群ではARBとACE-I以外の降圧剤の通常用量を4週間投与し、バルサルタン追加群と同様に、降圧目標に達しなければ高用量に増量してさらに4週間投与し、それでも降圧不十分であればARBとACE-I以外の降圧剤を追加している。
その結果、バルサルタン追加群と非ARB群の両群ともベースライン時には平均血圧157/88mmHgであったが、追跡期間中央値3.27年の試験終了時には平均血圧133/76mmHgに低下していた。心血管イベント(脳卒中、一過性脳虚血発作、急性心筋梗塞、狭心症、心不全、解離性大動脈瘤、下肢閉塞性動脈硬化症、透析導入、血清クレアチニン値の倍化)の新規発生または悪化をプライマリーエンドポイントとして、両群を比較したところ、バルサルタン追加群では非ARB群より発生率が有意に低かった(バルサルタン追加群83例[5.5%]vs非ARB群155例[10.2%]:HR 0.55、95%CI 0.42~0.72、P=0.00001)。プライマリーエンドポイントの中でも両群間の差が大きかったのは、脳卒中・一過性脳虚血発作(25例[1.6%]vs 46例[3.0%]:HR 0.55、95%CI 0.34~0.89、P=0.01488)と狭心症(22例[1.5%]vs 44例[2.9%]:HR 0.51、95%CI 0.31~0.86、P=0.01058)であった。
以上のことから、高リスク高血圧患者において、バルサルタン追加投与にはARB以外の降圧剤のみの投与に比べて心血管イベントの発生率を有意に低下させる効果があると結論づけ、京都府立医科大学チームは2009年に論文を発表した。
しかし、2013年2月に欧州心臓病学会誌がその論文を「重大な問題がある」として撤回し、7月11日に京都府立医科大学は「KYOTO HEART Studyで提示された結論には誤りがあった可能性が高い」との調査報告3)を公表した。それによると、カルテ閲覧が可能であった223例のうち、心血管イベント発生の有無が解析用データとカルテ調査結果で一致しなかった症例が34 例[15.2%]あり、同223例について心血管イベントの発生率に関する解析を行ったところ、解析用データではバルサルタン追加群で非ARB群より有意にイベント発生が抑制されていたが、カルテ調査結果ではイベント発生に有意差は認められなかった。
すなわち、バルサルタンを追加投与した群とARB以外の降圧剤のみを投与した群の両群間で心血管イベントの発生率に有意差がなかったことから、バルサルタンを追加投与することによって予後の改善という高血圧治療の本来の目的が果たされているとは言えないため、バルサルタンをあえて追加投与する必要はないと考える。
※ 参考文献
1) 2012年(1月~12月)の国内医療用医薬品市場:https://www.mixonline.jp/LinkClick.aspx?fileticket=204NWBpEJAc%3d&tabid=60
2) Sawada T, Yamada H, Dahlöf B, Matsubara H. Eur Heart J. 2009; 30(20): 2461-9.
3) 「Kyoto Heart Study」臨床研究に係る調査報告:http://www.f.kpu-m.ac.jp/doc/news/2013/files/20130711press.pdf
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