サイトメガロウイルス(CMV)による末梢臓器障害は免疫抑制患者、典型的にはCD4陽性リンパ球数<50/μLで抗レ トロウイルス薬治療を受けていない、または反応しない患者のように進行した免疫不全患者で起こりやすい。CMV腸炎 はかつてはAIDS患者の5~10%に見られたが、HAARTにより今ではその頻度は大幅に減少した。(1) 症状は発熱、体重減 少、食思不振、倦怠感、腹痛、また大量の水溶性下痢は一般的であるが、散発性である。頻度の高い少量の下痢、しぶ り腹、または血便は大腸病変を示唆する症状である。広範囲に及ぶ粘膜出血と穿孔は致死的な合併症である。(2)
【診断について】 Up to dateによるとCMV腸炎は3主徴、1主要な臨床症状、2粘膜潰瘍またはびらんの所見、3ウイルス封入体を伴
う細胞破壊の組織学的所見、により最も的確に診断されると記されている。 内視鏡検査と組織学的検査によりCMV腸 炎と診断された56人の患者(CD4陽性リンパ球数;中央値:15 /μL, 1~294 /μL)において臨床症状と内視鏡的特徴 (場所、大きさ、所見)について記録し、病変部の生検を行った研究がある。その研究より、臨床症状については、慢 性下痢、腹痛が最も多くそれぞれ80%、50%、また9%の患者に下部消化管出血が見られた。内視鏡検査所見について は潰瘍を伴う腸炎(39%)、潰瘍単独(38%)、腸炎単独(20%)3つのグループに分類することができ所見は様々で あるが、腸炎の所見が炎症性腸疾患に似ている場合もあり鑑別が必要である。(3) 内視鏡検査で粘膜潰瘍部位が確認でき れば病理診断のためその部位より生検採取をする。病理診断でのCMV感染に特徴的な核内封入体、細胞質封入体の所見 がCMV腸炎の診断に必要である。(1)その他の検査については、CMVウイルス血症はPCRやantigen assaysによって疑う ことができるが、CMVによる末梢臓器疾患の有無にかかわらず陽性となる。同じく大腸のブラシ生検の培養はCD4陽性 リンパ球低値によりウイルス血症がある場合も陽性となる(1)ため確定診断には不適である。以上のことから、HIV腸炎 の診断には病変部位の組織診断が最も適していると考えられる。
【治療について】 Up to dateによるとCMV腸炎のInduction therapyはganciclovir 5 mg/kg 12時間毎、またはfoscarnet 90 mg/kg 12 時間毎、期間は3~6週間が推奨されており、Maintenance therapyについては議論の余地がある。ある研究では、生 検にてCMV腸炎と診断された62人の患者に14日間のganciclovir 5 mg/kg 12時間毎 vs プラセボのランダム化試験を 行った。この研究ではプラセボ群に対する内視鏡所見、体重維持、新たな腸管外のCMV疾患合併率に関してganciclovir 群の優位性を示している。しかし、治療後も下痢の症状は両群共に続いており、より長い治療期間が必要であることが 示された(4)。異なる研究では、48人のCMV消化器疾患患者に対して2週間のganciclovir 5 mg/kg vs foscarnet 90 mg/ kgのランダム化試験が行われた。結果は両群共に内視鏡的に粘膜治癒が認められ(85%、83%)、粘膜生検における封 入体の消失も両群73%の患者に見られ、ganciclovir、foscarnet共にCMV消化器疾患のInduction therapyに有効である ことが示唆された(5)。最適なInduction therapyの治療期間は不明であるが、CMV封入体の消失は継続して治療を行っ た例では3週間の治療の後に見られ、びらんの完全治癒には6週間が必要であったという研究もあり、臨床専門家のコ ンセンサスはCMV消化器疾患では3~6週間の治療を行うべきとしている。(2) 経口薬に関してはvalganciclovierは急速に吸収されganciclovirへと加水分解され、バイオアベイラビリティは高い。 CMV網膜炎の有効な治療として証明されているが、CMV消化器疾患においてはvalganciclovirは研究はなされていない ため初期の治療には推奨されない。valganciclovir 900 mg/day経口投与による血中濃度がganciclovir 5 mg/kg 静脈投 与の血中濃度に相当する。(2)
CMV消化器疾患に対する維持療法は確立しておらずHAARTのない時代の研究では、再発や生存の点からは維持療法の 有益性はないとしている。(5) HAART開始以降のCMV消化器疾患のマネジメントに関するデータはほとんどなく、維持 療法についてIDSA(Infectious Diseases Society of America)は推奨していない。 【参考文献】
(1)Guidelines for prevention and treatment of opportunistic infections in HIV-infected adults and adolescents: recommendations from CDC, the National Institutes of Health, and the HIV Medicine Association of the Infectious Diseases Society of America. MMWR REcomm Rep. 2009 Apr 10;58(RR-4):1-2007 (2)Up to date AIDS-related cytomegalovirus gastrointesti nal disease Mark A Jacobson 3 26, 2012.
(3)Cytomegalovirus colitis in acquired immunodeficiency syndrome: a clinical and endoscopic study. Gastrointest Endosc. 1998 Jul;48(1):39-43 Wilcox CM (4)Ganciclovir treatment of cytomegalovirus colitis in AIDS: a randomized, double-blind, placebo-controlled multicenter study.
J Infect Dis. 1993 Feb;167(2):278-82. Dieterich DT, (5)Treatment of AIDS-associated gastrointestinal cytomegalovirus infection with foscarnet and ganciclovir: a randomized comparison
J Infect Dis. 1995 Sep;172(3):622-8. Blanshard C, (6)Mandell, Douglas, and Bennett’s PRINCIPLES AND PRACTICE OF INFECTIOUS DISEASES seventh edition PARTIII 1975-1976
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