注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
【概要】 CRBSIは、全身性の感染症で、合併症として心内膜炎や骨髄炎や敗血症性血栓症があります[1]。しかし、確定診断は数日後に出る血液培養の結果によるので、CRBSI疑いの段階で治療を開始することが大切になります。カテーテル刺入部に発赤、疼痛、腫脹、膿汁流出といった感染の兆候が見られるとき(兆候が現れる確率は10%以下〔1〕)の他に、熱発やバイタルの変動があるのに、身体所見をとっても臓器を特定できないときは、CRBSIを疑い、治療の開始を検討します。そこでどのような治療を選択するかは、患者の重症度、感染のリスクファクター、その病院や地域のローカルファクターを考慮します。
【治療】 CRBSIの治療は原則的に、カテーテル抜去、血液培養検体採取、抗菌薬投与です。院内における血流感染の起炎菌としてはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)によるものが31%を占めます。以下黄色ブドウ球菌が20%、腸球菌が9%、カンジダが9%、クレブシエラが5%、緑膿菌類が4%と報告されています。〔2〕中でも黄色ブドウ球菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌によるものがよく見られます(CNSはここ20年では最頻。これは、CNSが、ほかの菌に比べてプラスティックカテーテルにくっつきやすいという特性によると考えられる〔3〕)。以上より、エンピリック治療ではまず、黄色ブドウ球菌とCNSに効果のある薬を選びます。さらに、病院のローカルファクターも加味して、MRSAの事例が多い病院や地域ではバンコマイシンを選びます。
グラム陰性桿菌(GNR)感染に対する治療も考えます。GNRによる敗血症はブドウ球菌に比べて頻度が高くありませんが、重篤になることが多いので、GNRをエンピリックにカバーするべきかどうかは,患者の重症度によります。GNRによる感染は好中球減少患者や重症敗血症患者では、緑膿菌感染が懸念されますので、エンピリックにカバーする必要があります。〔4〕また、緑膿菌に対してのエンピリック治療は、第4世代セフェムやカルバペネム系やβラクタム・アミノグルコシド併用などがありますが、どれを選択するかはその病院のローカルファクターによります。
カンジダ感染による敗血症も頻度が少ないので、GNRによるものと同様に、患者の重症度によりエンピリックにカバーするかどうかを決めます。高齢者、長期絶食中の患者、広域スペクトラムの抗菌薬を長期投与された患者は、カンジダ感染のリスクが高いと考え、エキノキャンディン系を投与します。[4]エンピリックにフルコナゾールの使用を検討するときは、Candida.glabrataやCandida.kruseiの感染が考えにくく、3ヶ月以内にアゾール系薬剤の投与歴がない場合に限られます。ですので、特に、血液悪性疾患の患者や骨髄移植している患者やカンジダが体のいろいろな部位にコロナイズしている人では、Candida.glabrataやCandida.kruseiが起炎菌になっていると考えられるので、エキノキャンディン系を投与します。また、鼠径部大腿静脈からカテーテルを入れている患者では、重症な場合には,エンピリックにグラム陰性桿菌,カンジダ属についてもカバーを行います。〔4〕これは、鼠径部や陰部には細菌や真菌が特に多いからです。
【参考文献】
〔1〕レジデントのための感染症診療マニュアル (第2版) 青木 眞 P630
〔2〕Hilmar Wisplinghoff , Nosocomial Bloodstream Infection in US Hospitals :Analysis of 24,179 Cases from a Prospective Nationwide Surveillance Study Clinical Infectious Diseases 2004;39:309-17
〔3〕Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases : Infections Caused by Percutaneous Intravascular Devices ,302;3700
〔4〕Leonard A.Mermel Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Intravascular Catheter-Related Infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America Clinical Infection Diseases 2009,49:1-45
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