日本の医療でとくに問題だと思いますが、患者じゃなくて検査を治療してしまう医者が多いです。そして、それを助長するような健康診断。健診で異常が見つかる。医者にかかる。治療が始まる。患者さんはピンピンしている、、、いったい何をやっているのでしょうね。
とくにぼくが心配しているのが、尿酸値。尿酸が高いと痛風といってとても痛い関節炎の原因になります。痛風発作を起こした人は、発作の予防のために尿酸値を下げるような薬を飲んだり、食事を改善したりします(プリン体とアルコールが問題です)。ぼくも、痛風患者さんにはそうしています。
しかし、痛風発作なんて全然起こしていないのに、尿酸値だけ高い方がいます。「検査だけ異常」な患者さんです。ケリーの「リウマチ学」(この領域のバイブル)には、痛風発作が起きていない高尿酸血症患者の薬物療法は原則必要ないと書かれています(Firestein: Kelley's Textbook of Rheumatology, 9th ed.)。ところが、日本では実に多くの「発作のない尿酸が高い人」にアロプリノール(ザイロリックその他)など、尿酸を下げる薬が出されているのです。これは、アメリカのガイドラインでは治療が推奨されていない(Arthritis Care Res. 2012;64:1431-1461)のに日本では尿酸値が高い(>9.0mg/dl)なら治療が推奨されている(日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン作成委員会(2010)『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン-第2 版-』メディカルレビュー社)ことも影響しているようです。
尿酸は痛風発作だけに関係しているのではありません。腎臓を悪くしたり、高血圧や心臓病にも関係しているとも言われています。しかし、「リスクのある方」に薬を飲ませてよいことがあるか、というとそれは別問題です。
尿酸を下げる薬を飲めば、尿酸は下がります。でも、尿酸を下げること「そのもの」は医者や患者さんの目標ではないはずです。その先に、「より元気になる」とか「痛くならない」といった具体的な利得が必要になります。残念ながら、痛風発作を起こしたことがない人に対して、薬はそういう「具体的な利益」を提供してくれないのです。血液検査だけ治しているのです。
多くの医者は尿酸が高いだけでアロプリノールを処方します。「もしなにかあったらいけないから、念のため」という理由が多いです。確かに、尿酸高いのはいろいろな病気のリスクですから、その心情は理解出来ます。
しかし「もしなにかあったら」は、実は薬を出す方にも作動するロジックなんです。もし、処方した薬で副作用がでたら、、、、
実は、尿酸も腎臓に悪いですが、アロプリノールそのものも腎臓を悪くすることがあるんです。リスクは薬を飲んでもついて回るんですね。
それと、アロプリノールには重症型の皮膚病を起こすことが知られていて、DIHS(drug induced hypersensitivity syndrome)と呼ばれています。ディース、と読みます。これは命にかかわる超重症の皮膚病です。ときどき、アルプリノールを飲んでいる方でこれを発症する患者さんを見ます。もともと何の症状もないのに、医者にアロプリノールを処方されていました。見るたびになんとも言えない気持ちになります。この患者さん、一体なんのために入院しなきゃいけなかったんだろ。
「もしなにかあったら」という理由で薬を処方するのなら、その薬で「もしなにかあったら」という可能性にも思いを馳せなければなりません。両方向のリスクを等しい目で見ることができる、バランスのとれた医者が必要とされているのです。
とはいえ!
この話には少しだけ例外があります。実は、「もともと腎臓が悪い人」を対象にした研究があり、その人が「かつ」尿酸値が高い人だと、尿酸を薬で下げると腎臓機能の悪化が和らげられるのだそうです(Am J Kidney Dis. 1987; 47:51-59)。神戸大学医学部附属病院感染症内科で実習を受けた5年生がこの研究を見つけてくれました。
なので、アロプリノールの処方全てが「悪」なのではありません。もちろん、痛風発作を起こした人にはとても大事な治療薬です。ちょっと前までは痛風発作のときにアロプリノールを飲むとさらに発作が悪くなる、と言われていて、ぼくが研修医の時は、「アロプリノール、出しちゃダメだぞ」と、先輩医師に教えられていました。ところが、最近の研究ではそうでもないそうで、発作時にアロプリノールを飲んでいても問題ないんだそうです(Ann Intern Med. 2013 Apr 16;158(8):JC6)。こういう患者さんにはアロプリノールを飲んでもらいます。その副作用のリスクよりも薬の利益のほうが大きくなるからです。
医学はどんどん進歩し、昔の常識は、現在の非常識になることは多いです。医者には日々の勉強が必要なのはもちろんですが、昔の常識にしがみつかない、柔軟な頭もやはり必要なのです。
とくにぼくが心配しているのが、尿酸値。尿酸が高いと痛風といってとても痛い関節炎の原因になります。痛風発作を起こした人は、発作の予防のために尿酸値を下げるような薬を飲んだり、食事を改善したりします(プリン体とアルコールが問題です)。ぼくも、痛風患者さんにはそうしています。
しかし、痛風発作なんて全然起こしていないのに、尿酸値だけ高い方がいます。「検査だけ異常」な患者さんです。ケリーの「リウマチ学」(この領域のバイブル)には、痛風発作が起きていない高尿酸血症患者の薬物療法は原則必要ないと書かれています(Firestein: Kelley's Textbook of Rheumatology, 9th ed.)。ところが、日本では実に多くの「発作のない尿酸が高い人」にアロプリノール(ザイロリックその他)など、尿酸を下げる薬が出されているのです。これは、アメリカのガイドラインでは治療が推奨されていない(Arthritis Care Res. 2012;64:1431-1461)のに日本では尿酸値が高い(>9.0mg/dl)なら治療が推奨されている(日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン作成委員会(2010)『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン-第2 版-』メディカルレビュー社)ことも影響しているようです。
尿酸は痛風発作だけに関係しているのではありません。腎臓を悪くしたり、高血圧や心臓病にも関係しているとも言われています。しかし、「リスクのある方」に薬を飲ませてよいことがあるか、というとそれは別問題です。
尿酸を下げる薬を飲めば、尿酸は下がります。でも、尿酸を下げること「そのもの」は医者や患者さんの目標ではないはずです。その先に、「より元気になる」とか「痛くならない」といった具体的な利得が必要になります。残念ながら、痛風発作を起こしたことがない人に対して、薬はそういう「具体的な利益」を提供してくれないのです。血液検査だけ治しているのです。
多くの医者は尿酸が高いだけでアロプリノールを処方します。「もしなにかあったらいけないから、念のため」という理由が多いです。確かに、尿酸高いのはいろいろな病気のリスクですから、その心情は理解出来ます。
しかし「もしなにかあったら」は、実は薬を出す方にも作動するロジックなんです。もし、処方した薬で副作用がでたら、、、、
実は、尿酸も腎臓に悪いですが、アロプリノールそのものも腎臓を悪くすることがあるんです。リスクは薬を飲んでもついて回るんですね。
それと、アロプリノールには重症型の皮膚病を起こすことが知られていて、DIHS(drug induced hypersensitivity syndrome)と呼ばれています。ディース、と読みます。これは命にかかわる超重症の皮膚病です。ときどき、アルプリノールを飲んでいる方でこれを発症する患者さんを見ます。もともと何の症状もないのに、医者にアロプリノールを処方されていました。見るたびになんとも言えない気持ちになります。この患者さん、一体なんのために入院しなきゃいけなかったんだろ。
「もしなにかあったら」という理由で薬を処方するのなら、その薬で「もしなにかあったら」という可能性にも思いを馳せなければなりません。両方向のリスクを等しい目で見ることができる、バランスのとれた医者が必要とされているのです。
とはいえ!
この話には少しだけ例外があります。実は、「もともと腎臓が悪い人」を対象にした研究があり、その人が「かつ」尿酸値が高い人だと、尿酸を薬で下げると腎臓機能の悪化が和らげられるのだそうです(Am J Kidney Dis. 1987; 47:51-59)。神戸大学医学部附属病院感染症内科で実習を受けた5年生がこの研究を見つけてくれました。
なので、アロプリノールの処方全てが「悪」なのではありません。もちろん、痛風発作を起こした人にはとても大事な治療薬です。ちょっと前までは痛風発作のときにアロプリノールを飲むとさらに発作が悪くなる、と言われていて、ぼくが研修医の時は、「アロプリノール、出しちゃダメだぞ」と、先輩医師に教えられていました。ところが、最近の研究ではそうでもないそうで、発作時にアロプリノールを飲んでいても問題ないんだそうです(Ann Intern Med. 2013 Apr 16;158(8):JC6)。こういう患者さんにはアロプリノールを飲んでもらいます。その副作用のリスクよりも薬の利益のほうが大きくなるからです。
医学はどんどん進歩し、昔の常識は、現在の非常識になることは多いです。医者には日々の勉強が必要なのはもちろんですが、昔の常識にしがみつかない、柔軟な頭もやはり必要なのです。
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