さて、そろそろ折り返し地点ですね。
日本の医療におけるいろいろな問題を考えてきました。
日本では、世界ではほとんど行なっていないような医療をしょっちゅう行なっています。突出してARBという血圧の薬を使い、突出してDPP4阻害薬という糖尿病の薬を使い、突出してフロモックスやメイアクトという日本でほぼ専売状態の抗生物質を使い、「検査が異常」といって、尿酸を下げることが目的(手段ではなく)の薬を使ってしまっています。
では、なぜ日本でだけこのような奇妙な医療が成立しているのでしょう。これについては、この連載の最後のほうでまとめようと思っていたのですが、最近いくつかの講演でこの議論をする機会があったので、その記憶が確かなうちにまとめておこうと思います。
理由のひとつは、日本の医者のハートのせいだとぼくは思います。
日本の医者は、世界でもずば抜けて良心的な医者だとぼくは思っています。もちろん、あくまで平均像でして、世界にも素晴らしく良心的な医者はいますし、日本にだってちょっと恥ずかしい医者もいます。でも、平均像を見ると、日本の医者は極めて良心的で、利他的で、自らを犠牲にし、患者のために尽くしています。これは、外国で暮らし、その国の医療を体験すれば、確実に実感できます。
だから、目の前に患者さんがいると、何かしてあげたい、という強い気持ちが沸き起こります。なにもしないなんて気の毒だ。せめて、薬くらいは出してあげなければ。お、この患者さん、尿酸値が高いじゃないか。これを看過するなんて、俺の良心が許さない。お、ここに新しい糖尿病の薬があるじゃないか。なになに?低血糖を起こしにくい?そりゃ、ぜひこんどうちの患者さんにも使ってあげなければ。手術の後で、感染症なんか起こされるのは気の毒だ。(根拠はとくにないけれど)、念のため抗生物質を飲んでもらおう。フロモックスがいいな。あれは(効果がない分)副作用が少なそうだ。
例えば、アメリカの医者とか、フランスの医者は、このような強いメンタリティーを持っていません。尿酸値?ガイドラインに書いてないじゃん。てな感じで、クールにばっさり、のことが多いです(繰り返しますが、個々のレベルだといろんな人がいます、もちろん。あくまで平均像です)。
日本の医者のハートは、世界的な目で見ると100点満点です。比較的低い給料で、朝も晩も週末も働き、勉強し、あれやこれやの要求に応え、クレームに対応し、患者の苦痛と苦悩に対応します。賭けてもいいですが、日本の病院に、もし日本語ペラペラのアメリカ人やヨーロッパ諸国のドクターが就職したら、ほとんどの人は数ヶ月ともたないと思います。「こんなところで働いてられるか」という感じです。それが女性ならば、若手ならば、なおさらです。
日本は、子どもに、若者に、女性に、マイノリティーに厳しい、「Gちゃん中心主義社会」だからです。風疹?妊婦や子どもなんか知るか。それよりも高齢者の福祉と医療だ。若者は徴兵してノーと言える日本だ!なんてのたまうGちゃんが大事にされるのです(まじで)。<ー文法間違いは、わざとです。
こういう厳しい労働環境でも頑張っていられるのは、日本の医者が極めて我慢強く、利他的で、患者に尽くしているからに他なりません。
とはいえ!
しかし、善意は必ずしもよい結果を患者にもたらしません。いや、「俺はこんなに患者に尽くしているのに」という強い気持ちは、「だからつべこべ俺のやり方に文句を言うな」というメンタリティーに容易に変化します。日本の医者が他人の言葉に耳を貸さず、行動変容を起こすのが苦手で、患者にも(表向き)態度がよろしくない(ことがある)のはそのためだとぼくは思います。悪意でやってる分には批判は簡単ですが、善意から発露されているだけに、この問題は根が深いです。
本当に患者さんのことが心配だったら、尿酸を下げる薬で起きうるDIHSという皮膚病や、フロモックスやメイアクトで起きうる低血糖発作や、アジスロマイシンやクラリスで起きうる不整脈なんかにも配慮し、「心配だ」と思う必要があるのです。日本の医者は、総じて心配のバランスがよくないのです。あちらには過度に心配するくせに、こちらはほったらかしなのです。
で、問題は、なぜそうなのか。なぜ、日本の医者はハートが100点なのに頭は0点なのか。
という話を次回します。
折り返しですね。後半楽しみにしています。
私は滋賀の田舎で小さな小児科医院を開業している岡田というものです。
夏井睦先生の湿潤療法を実践しており、熱傷の子どもを治療しております。
http://d.hatena.ne.jp/pediatrician/20120822/1345601206
熱傷学会のガイドラインに反した治療をしています。
また、江部康二先生の糖質制限食にて糖尿病のコントロールも始めました、
http://pub.ne.jp/kidsclinic/?daily_id=20130719
たかが一例ですがされど一例です。
糖尿病学会からは命の危険があると警告されている治療法です。
患者さんの希望を聞き治療の選択肢をしめし、それのサポートをしただけです。患者さんは喜んでおられます。
投稿情報: Okdkid | 2013/07/19 16:46