末梢循環改善薬について
近年、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の患者が増加しており、それに伴い末梢循環改善薬が処方される機会が増えている。これらの疾患以外にも、バージャー病、肺高血圧、閉塞性動脈硬化症などにも末梢循環改善薬は処方されている。末梢循環改善薬には抗血小板薬や末梢血管拡張薬などがあるが、今回は末梢血管拡張薬について調べることにした。
末梢血管拡張薬にはPG製剤(PGE1,PGI2)、PDE5阻害薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ニコチン酸系薬、β刺激薬、循環系ホルモン剤などがある。これらのうち、以下の薬剤の添付文章に書かれている、臨床成績に関する論文等を調べてみることにした。
①トラクリア(エンドセリン受容体拮抗薬)
Channick R, et al. Lancet 2001; 358: 1119-1123、Rubin LJ, et al. N Engl J Med 2002; 346: 896-903、Galie N, et al. Lancet 2008; 371: 2093-2100、Sasayama S, et al. Circ J 2005; 69: 131-137、社内資料
②レバチオ(PDE5阻害薬) Galie,N.et al.:N Engl J Med 353(20):2148,2005
社内資料
③ズファジラン(β刺激薬) 臨床成績に関する記載なし
④サークレチン(循環系ホルモン剤) 臨床成績に関する記載なし
⑤オパルモン(PGE1) 医学のあゆみ138:217,1986、社内資料
①②によるとそれぞれの薬剤を肺高血圧の患者に投与したところ6分間歩行テストの距離が改善された(①ではプラセボ群との平均距離の差が44m。②では用量を増やすほど距離が増加。共にp<0.001)。しかし、6分間歩行は呼吸器・循環器の機能を評価するための検査であり、末梢循環を評価している訳ではない。③④に関しては、臨床成績に関する記載が何もなく、効果に関するエビデンスがあるかどうか分からなかった。このような薬が認可されていることに驚きが隠せなかった。一方、⑤のように、臨床成績に関する論文が示されているものでも、効果があるとするエビデンスには到底なりえない(チクロピジンと比べて四肢慢性動脈閉塞症の治療効果は遜色ないという内容だが、チクロピジンが効果があるというエビデンスがそもそもない)ものもあった。これまで処方されていた薬の中には実は何の効果もない薬があるのかもしれない。
このように、これまで効果があるとされてきた薬でも、よくよく調べてみれば何の根拠も示されていないものもあり、今後我々が薬を処方する際には「この薬は本当に効くのか、エビデンスはあるか、患者にとって本当に必要なのか」ということを考える必要がある。これは薬のことに限らず、医療行為全般にあてはまるのではなかろうか。
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