[心得 1] 2度めもかかりつけ医にいこう
病気になって、医者にかかる。数日たってもよくならない。で、家族や友達が心配して、「大きな病院に行ったほうがいいんじゃない?」
こういうパターンってとても多いです。
でも、多くの場合は「治る途中」を見ているだけだったりします。
例えば、急性気管支炎。これは熱が出て、うっとうしい咳が出て、の病気です。よく医者は気管支炎に抗生物質を出しますが、じつは抗生物質は効かないことがほとんどで、アメリカなんかでは「抗生物質をもらわないようにしましょう」と薦めています(Ann Intern Med. 2001;134(6):521-529)。日本では、抗生物質の使い方をきちんと勉強していない医者が非常に多いため、「なんとなく」抗生物質を出しちゃっているトホホなケースが多いのです。
さて、その急性気管支炎。咳がうっとうしいのが特徴ですが、多くの患者さんでは咳は7日から10日くらい続きます。なんと、半分の患者さんでは咳は3週間くらい続きます。感染症そのものが治っても咳だけが残ってしまい、半年も咳が続くこともまれにあります(Am Fam Physician. 1998 Mar 15;57(6):1270-1276)。
なんですが、日本の患者さんはどうもせっかちなのか、「おととい近くの先生のところにいったんですが、まだ治りません」と言って別の病院に行ってしまいます。前述のように、日本の医者はあまり抗生物質の勉強をきちんとしていない人が多いので、「では」といって別の抗生物質を出してしまいます。数日たっても咳は続き、「また別の病院」、、、と同じ事のくり返し。
さて、ある病気が治る途中にあるのか、それとも治っていないのかの判定は、「最初に診ていた」医者が一番上手に判定できるんです。ですから、「治りが悪いな」と思って心配になったら、別の病院に行くんじゃなくて、最初に行った医者のところにもう一度行くことをおすすめします。そうすれば、その医者がその病気が「治りつつある過程」にあるのか、「別の病気で全然治っていないのか」を判定してくれます。
医者の判定は100%正しいとは限りません。でも、だいたいは正しいです。ちゃんとした医者なら、だいたい8割くらいの確率で正しい診断がつきます(Br Med J, 2 : 486-489, 1975)。野球の世界では3割バッターでも上出来ですが、医者はそれよりはるかに優秀なのです。なので、医者にかかった2日後に症状がパッとしない場合でも、「治りつつ過程」にある可能性のほうが「別の病気で全然治っていない」可能性よりもずっと高いのです。
そして、まっとうな医者なら「自分が間違っている可能性」については十分に自覚的です。間違えていたのなら、すぐに軌道修正してくれるはずです。残念ながら医者には10割バッターはいませんから、間違えることがダメなんじゃありません。間違いに気付いて、すぐに軌道修正が出来ればいいんです。
病気の症状は時間が経てば経つほどはっきりしてきます。「後医は名医」という格言があって、医者の力量とは関係なく、後から診た医者のほうが診断が正しくなりがちなのもそのためです。でも、同じ医者が時間をかけて診察すれば別の医者が診るよりもうまく診察してくれます。「2日たったら別の医者」ではなく、2度めもおなじかかりつけ医を受診するのが、より賢い患者のやり方なのです。
とはいえ!
日本の医者の多くが説明ベタなのも「すぐに別の病院」の原因だと、ぼくは思います。最初に受診したとき、ちゃんと説明しておけばよかったのに。
「咳は普通10日くらい続きますよ。半分の患者さんは何週間も続きますよ。だから、2,3日たって咳が止まらなかったからといってがっかりしないでくださいね」
と説明しておけば、こういうことにはならなかったのに。
ぼくが医学生のとき、大阪にある、ある小児科救急の当直を見学していたのですが、その先生は素晴らしかったです。
冬になると風邪ひきさんが増えて、何十人もの風邪の子どもが夜中にやってきます。小児科外来は実に忙しい。で、この女性の先生は「これは風邪で、お薬を出したら熱は下がりますが、完全に平熱には戻らないです。でもいいんですよ。体温計が元に戻らなくても、お子さんがらくーになればそれでいいんです。で、薬が切れたらまた熱が上がりますが、がっかりしてまた病院に戻ってくる必要はありません。治るまでには2,3日はかかると思っておいたほうがよいですよ。それで、、、」と延々とお母さんに説明するのです。同じ事を何十回も延々と、夜中にやるのです。
「先生、すごいですね。よくあんなに丁寧に同じ事を繰り返せるもんですね」と学生のぼくが驚いて言うと、「ああ言わないと、6時間後にまた熱が出て戻ってきちゃうでしょ。そしたらもっと忙しくなるじゃない」としれっと言われてしまいました。
でも、今から考えるとその偽悪的なセリフは先生の照れ隠しで、ぼくはその単調に繰り返される説明に彼女のプロ魂を感じとります。日本の医者にはダメなところもたくさんありますが、すばらしいところもたくさんあるのですね。
病気になって、医者にかかる。数日たってもよくならない。で、家族や友達が心配して、「大きな病院に行ったほうがいいんじゃない?」
こういうパターンってとても多いです。
でも、多くの場合は「治る途中」を見ているだけだったりします。
例えば、急性気管支炎。これは熱が出て、うっとうしい咳が出て、の病気です。よく医者は気管支炎に抗生物質を出しますが、じつは抗生物質は効かないことがほとんどで、アメリカなんかでは「抗生物質をもらわないようにしましょう」と薦めています(Ann Intern Med. 2001;134(6):521-529)。日本では、抗生物質の使い方をきちんと勉強していない医者が非常に多いため、「なんとなく」抗生物質を出しちゃっているトホホなケースが多いのです。
さて、その急性気管支炎。咳がうっとうしいのが特徴ですが、多くの患者さんでは咳は7日から10日くらい続きます。なんと、半分の患者さんでは咳は3週間くらい続きます。感染症そのものが治っても咳だけが残ってしまい、半年も咳が続くこともまれにあります(Am Fam Physician. 1998 Mar 15;57(6):1270-1276)。
なんですが、日本の患者さんはどうもせっかちなのか、「おととい近くの先生のところにいったんですが、まだ治りません」と言って別の病院に行ってしまいます。前述のように、日本の医者はあまり抗生物質の勉強をきちんとしていない人が多いので、「では」といって別の抗生物質を出してしまいます。数日たっても咳は続き、「また別の病院」、、、と同じ事のくり返し。
さて、ある病気が治る途中にあるのか、それとも治っていないのかの判定は、「最初に診ていた」医者が一番上手に判定できるんです。ですから、「治りが悪いな」と思って心配になったら、別の病院に行くんじゃなくて、最初に行った医者のところにもう一度行くことをおすすめします。そうすれば、その医者がその病気が「治りつつある過程」にあるのか、「別の病気で全然治っていないのか」を判定してくれます。
医者の判定は100%正しいとは限りません。でも、だいたいは正しいです。ちゃんとした医者なら、だいたい8割くらいの確率で正しい診断がつきます(Br Med J, 2 : 486-489, 1975)。野球の世界では3割バッターでも上出来ですが、医者はそれよりはるかに優秀なのです。なので、医者にかかった2日後に症状がパッとしない場合でも、「治りつつ過程」にある可能性のほうが「別の病気で全然治っていない」可能性よりもずっと高いのです。
そして、まっとうな医者なら「自分が間違っている可能性」については十分に自覚的です。間違えていたのなら、すぐに軌道修正してくれるはずです。残念ながら医者には10割バッターはいませんから、間違えることがダメなんじゃありません。間違いに気付いて、すぐに軌道修正が出来ればいいんです。
病気の症状は時間が経てば経つほどはっきりしてきます。「後医は名医」という格言があって、医者の力量とは関係なく、後から診た医者のほうが診断が正しくなりがちなのもそのためです。でも、同じ医者が時間をかけて診察すれば別の医者が診るよりもうまく診察してくれます。「2日たったら別の医者」ではなく、2度めもおなじかかりつけ医を受診するのが、より賢い患者のやり方なのです。
とはいえ!
日本の医者の多くが説明ベタなのも「すぐに別の病院」の原因だと、ぼくは思います。最初に受診したとき、ちゃんと説明しておけばよかったのに。
「咳は普通10日くらい続きますよ。半分の患者さんは何週間も続きますよ。だから、2,3日たって咳が止まらなかったからといってがっかりしないでくださいね」
と説明しておけば、こういうことにはならなかったのに。
ぼくが医学生のとき、大阪にある、ある小児科救急の当直を見学していたのですが、その先生は素晴らしかったです。
冬になると風邪ひきさんが増えて、何十人もの風邪の子どもが夜中にやってきます。小児科外来は実に忙しい。で、この女性の先生は「これは風邪で、お薬を出したら熱は下がりますが、完全に平熱には戻らないです。でもいいんですよ。体温計が元に戻らなくても、お子さんがらくーになればそれでいいんです。で、薬が切れたらまた熱が上がりますが、がっかりしてまた病院に戻ってくる必要はありません。治るまでには2,3日はかかると思っておいたほうがよいですよ。それで、、、」と延々とお母さんに説明するのです。同じ事を何十回も延々と、夜中にやるのです。
「先生、すごいですね。よくあんなに丁寧に同じ事を繰り返せるもんですね」と学生のぼくが驚いて言うと、「ああ言わないと、6時間後にまた熱が出て戻ってきちゃうでしょ。そしたらもっと忙しくなるじゃない」としれっと言われてしまいました。
でも、今から考えるとその偽悪的なセリフは先生の照れ隠しで、ぼくはその単調に繰り返される説明に彼女のプロ魂を感じとります。日本の医者にはダメなところもたくさんありますが、すばらしいところもたくさんあるのですね。
おはようございます。内田樹先生のツイートでこちらを知って拝読しに参りました。後半「小児科外来」が「小児科が以来」になっている誤字がございます。僭越ながらご指摘申し上げます。今後の連載を楽しみにしております。
投稿情報: Itobun | 2013/06/29 09:17