日本でポリオが流行したとき、不活化ワクチンでその流行が食い止められなかったため、緊急で生ワクチンを輸入したのは有名な話だ。その後日本ではポリオの発生は激減したが、本来の感染症のリスクが減った分、相対的にワクチンの不利益(副作用)が強く出てしまった。生ワクチンそのものによるポリオ(いわゆる小児麻痺)で苦しむ子供が見られるようになり、不活化ワクチンに変更されたのはよく知られた話。
さて、日本で風疹が流行している。こちらも予防接種で防げる感染症だが、流行に歯止めがかからない。妊婦が風疹に罹患すると、流産や先天奇形(CRS)の原因になる可能性がある。すでにこの10年で25例のCRSの報告があるが、実数はもっと多いのかもしれない。ポリオを看過しないのなら、CRSも看過すべきではない。そうではないか。
ポリオワクチンによる麻痺は(遅ればせながら)看過しない厚労省が、CRSを看過しているのは不可思議である。Aにはアプライされる考えが、Bにはアプライされない。一貫性がない。その政権の厚生労働大臣やそのときの厚労省の担当者(コロコロ変わる)のその場の空気、情緒が物事を決めている。そうではない、というのなら、そうではないところを具体的に示してほしいものだ。
いや、看過していないと厚労省は言うだろうが、決定的にして(ほぼ)唯一の風疹対策である予防接種ポリシーが充実していない以上、「看過している」と言わざるを得ない。ポスター配るだけでは、不十分である。昨日、国際感染症学会のProMEDに日本の現状を報告したが、エディターに、「日本政府がキャッチアップ・ワクチンを行わないのは奇異である」とコメントされてしまった。同感である。
日本の予防接種制度は形式が目的の上位にたつ、奇異な制度である。通常は、「どうやって病気を予防しようか」という命題から方法が決まる。しかし、日本の場合は「どうやって方法を決めようか」が目的化して、本来の目標はほったらかしである。形式的に予防接種の制度を作っても、そこから漏れる人たちはかならずいる。先日観た妊婦の風疹患者も、定期予防接種から「漏れてしまった」患者だった。ならば、スケジュール外でも接種できるようにすればよいのだが(キャッチアップ)、日本の場合スケジュールから漏れると定期接種を受けることができない。接種率をあげるためにはなんでもやる、という柔軟な姿勢がそこにはない。国際的には極めて非常識なシステムだ。
ヒトヒト感染がない、あるいはほとんどないとされているインフルエンザH7N9は指定感染症、検疫感染症になっているのに、ヒトヒト感染がほぼ確定的で、死亡率も高いMERSコロナウイルスはそうではない。根拠がわからない。ここでも考え方に一貫性がない。
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