すみません。ぼくの不注意で、古いバージョンを上げてしまいました。差し替えます。 岩田
注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
~DPP-4阻害薬の臨床的意義について~
糖尿病患者において、血糖コントロールは極めて重要である。低血糖発作や高血糖昏睡の予防だけでなく、早期の厳格な血糖コントロールにより、神経障害、腎障害、網膜症、心筋梗塞、脳卒中などの合併症を抑制できるからである。(1)
DPP-4阻害薬は、血糖依存性にインスリン分泌を促進しグルカゴン分泌を抑制することで、血糖コントロールを改善する。血糖降下作用はメトホルミンに劣るが、体重増加や低血糖を起こさず、インスリンやSU剤、チアゾリン系と同程度のHbA1c降下作用および体重コントロールが得られる。(3) よって、SU剤やメトホルミンが使えない人に対してDPP-4阻害薬の適応が考えられる。(4)
また、リナグリプチン(商品名トラゼンタ®)は胆汁排泄型であり、腎機能低下が見られる2型糖尿病患者における単独投与がすすめられる。2型糖尿病自体に腎機能低下リスクがあることを考えても、より使いやすさの幅が広がる。
副作用は他の経口血糖降下薬と比べると少ない。まず、メトホルミンおよびGLP-1作動薬に比べて、下痢、嘔気、嘔吐などの副作用が起こる確率が低い。(4) 次に、SU剤との比較では、低血糖が起こりにくい。しかし、SU剤と併用する際、重症低血糖に注意しなければならない。シタグリプチンが発売された2009年12月から翌年4月までの間に、SU剤とシタグリプチンの併用で、64例の重症低血糖が報告されている(低血糖昏睡19例を含む)。(5)さらに、はっきりとした機序は分かっていないが、シタグリプチン投与中に1%以下の確率で急性膵炎が見られる。(6)
他剤と比較して高価であることも問題点である。患者の経済状況によってはDPP-4阻害薬のみを服薬し続けることは困難となる。
l DPP-4阻害薬 ジャヌビア錠50mg (シタグリプチン) 166.00円/錠
ネシーナ錠12.5mg (アログリプチン) 111.20円/錠
l SU剤 アマリール0.5mg錠 (グリメピリド) 19.20円/錠
l チアゾリン アクトス錠15 (ピオグリタゾン) 76.50円/錠、
ピオグリタゾン錠15mg「アメル」47.00円/錠 (7)
最後に、新薬であるため、長期投与における有用性、安全性、死亡率、糖尿病合併症、健康関連QOLなどのデータが少ない。(5) 糖尿病が生涯を通して付き合わなければならない疾患であることを考えると、長期的服用の安全性が保障されていないDPP-4阻害薬を安易に多用することは避けるべきである。
<結論>
DPP-4阻害薬は、単独投与ではメトホルミンやSU剤などの従来の糖尿病治療薬と同等のHbA1cコントロールを示す。また、体重増加や低血糖が起こる頻度が低い。さらに、腎機能低下が見られる患者に対しても使用できる。しかし、薬価が高いこと、および長期的投与の安全性が確立されていないことが問題点である。したがって、上記に述べた点を考慮して、慎重に使用する必要がある。
<参考文献>
1) Holman RR et al, N Engl J Med 2008; 359(15): 1577-1589, UKPDS Group, Lancet 1998; 352(9131): 837-853
2) BMJ, “Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors for treatment of type 2 diabetes mellitus in the clinical setting: systematic review and meta-analysis”
3) Diabetes, Obesity and Metabolism 13:594-603, 2011 Blackwell Publishing Ltd, “Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors and HbA1c target of <7% in type 2 diabetes: meta-analysis of randomized controlled trials”
4) 糖尿病ネットワーク, ”糖尿病治療におけるDPP-4阻害薬の位置づけ” <http://www.dm-net.co.jp/ga-file/ddp4i/ddp4i-1.php#01-a>
5) Kathleen Dungan, UpToDate, “Glucagon-like petide-1-based therapies for the treatment of type 2 diabetes mellitus”
6) UpToDate, “Sitagliptin: Drug information”
7) Diabetes Resource Guide Japan, “薬剤一覧表”
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