注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
酒さについて(ロングバージョン)
中高年の顔面に発赤その他皮膚症状が生じる慢性炎症性疾患。4タイプに分かれる。白人では人口の1-10%とcommonで、日本でもある程度の有病率がある可能性がある。原因不明だが、免疫・微生物・紫外線・血管運動などの関与が示唆されている。マネージメントとして有効なのは増悪のtriggerを回避することやスキンケアなど。薬物治療にメトロニダゾール・アゼレイン酸外用などがあるが日本でavailableな治療は少ない。 |
酒さとは - 概要&疫学
酒さとは、30~40歳代の女性に多い、顔面の中心に発赤その他の多彩な皮膚症状が生じる慢性炎症性疾患である。男女比1:3、色白の人に多い。白色人種では人口の1-10%ととてもcommonである。有色人種では比較的少ないとされるが、日本では380万人が罹患しているという報告もあり、未治療のまま悩むたくさんの患者が潜在的に存在しているだろう。残念なことに、日本ではこの疾患はほとんど知られておらず、この疾患に関する研究報告はほとんどない。
酒さの分類&症状 - 酒さは4つに分けられる。
1) Erythematotelangiectatic rosaceaこれは、顔の赤みがメインの酒さであり、酒さでもっとも典型的なタイプである。顔の中心に持続的な顔の発赤・ほてりがあり、気温・日光・刺激物・運動などを"trigger"として一時的に増悪する。また、皮膚の敏感さが増強し、ちくちく・ひりひり・ぴりぴりする感覚などがみられる。増悪すると拡張した毛細血管が目視できるようになることもある。
2) Papulopustular rosacea赤みにくわえ丘疹・膿疱が見られるタイプの酒さである。皮疹はにきびに似ているが、コメドが無い、炎症が丘疹・膿疱に限局しないなどの違いがある。
3) Phymatous rosacea組織の過形成をきたし、典型的には鼻の変形(鼻瘤)をきたす。ほかに顎、額など。これは男性に多い。
4) Ocular rosacea酒さの50%以上に眼症状が見られる。結膜充血、眼瞼炎、角膜炎、眼瞼縁の毛細血管拡張、流涙など。
酒さの原因 - 考えられるもの
酒さの原因は不明であるが、以下に示すものなどとの関係が示唆されている。
◆Immune dysfunction: 皮膚の微生物への免疫反応や刺激による免疫の活性化が慢性炎症を引き起こしているかもしれない。cathelicidinやkallikrein5などの関係が示唆されている。
◆Demodex: 毛包虫(ニキビダニ・顔ダニ)はほぼすべての成人の皮膚、特に顔の皮脂腺に存在する。酒さのひどい人ほど毛包虫の顔での密度は多い。
◆Bacillus olenorium: 先述の毛包虫から分離されたバクテリアで、この抗原は単球を活性化させる。
◆Helicobactor pyroli: ピロリ菌の存在・治療が酒さの病態に関係するという指摘があるが、そのデータはconflictingである。
◆Ultraviolet radiation: 紫外線と酒さとの関係は皮疹の場所、白人に多いことなどから示唆されている。紫外線がVEGF-2やFGF-2の分泌を促進させることなどがわかっている。
◆Vascular hyperactivity: 血管を拡張させるような行為(先述の"trigger")によって症状が増悪すること、患部の血流が増加していることから示唆される。
◆その他、S.epidermidis、C. pneumoniae、小腸のバクテリアなど。
酒さのマネージメント
基本的なマネージメントとして、
◆Avoidance of "trigger": 気温・日光・刺激物・運動などで発赤が急に増悪することがあるため、それを避けるように指導する。
◆Skin care: 頻繁に肌を保湿することや、肌を洗うときにやさしく洗うこと、アルコールの入った化粧品など刺激の強いものを避けることなどが挙げられる。
◆Sun protection: 少なくともSPF30以上の日焼け止めを使う。
医学的アプローチとしては、
◆Erythematotelangiectatic rosaceaへのアプローチとして、薬物治療は十分なエビデンスなく、毛細血管拡張のある部位にレーザー治療が適応となる。
◆Papulopustular rosaceaへのアプローチは、薬物治療としてメトロニダゾール外用、アゼレイン酸外用、スルファセタミド外用などがエビデンスのある治療である。治療抵抗性では経口抗菌薬など。
◆Phymatous rosaceaはレーザー焼灼、外科手術など。
◆Ocular rosaceaも外用抗菌薬を用いる。
[参考文献]
UpToDate(rosacea-pathogenesis-clinical-features-and-diagnosis;management-of-rosacea)
中山書店 最新皮膚科学大全(17)
酒さ(しゅさ)の顔面紅斑(赤み)を標的とした外用薬CD07805/47の海外後期第II相試験の結果について
http://www.japancorp.net/japan/article.asp?Art_ID=56018
[画像引用]
UpToDate(rosacea-pathogenesis-clinical-features-and-diagnosis)
wikipedia(immune system;Demodex;Helicobactor pyroli;Capillary)
Openclipart http://openclipart.org/
officeクリップアートhttp://office.microsoft.com/en-us/images/
働く人のイラスト フリー素材http://working-illustration.com/02-material/021-japan.html
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