注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症レポート
感染性大動脈瘤について
感染性大動脈瘤は、感染によって血管壁の破壊が起こり、局所的に大動脈が拡張した状態のことをいう。感染に起因したすべての動脈瘤、および既存の動脈瘤に感染が加わったものも含めて感染性動脈瘤と総称する。好発部位としては、腎動脈以下の腹部大動脈(42%)、胸部(32%)、腹部分岐にかかる腹部(26%)の順に頻度が高い。感染性動脈瘤が全大動脈瘤に占める割合は0.5~ 1.3%であり、最も多い起因菌としてブドウ球菌、サルモネラがあげられ、その他肺炎球菌、梅毒トレポネーマ、結核菌、真菌や嫌気性病原菌も起因菌となりうる。死亡率は23.5~37%と非感染性大動脈瘤に比して極めて高く、リスクファクターとして動脈損傷、先行感染症、免疫不全状態、アテローム性動脈硬化、既存する大動脈瘤、加齢などがあげられる。感染性大動脈瘤の身体症状として背部や腹部の疼痛を伴うこともあるが、原因不明の発熱のみ、または大動脈瘤が破裂するまで無症状であることも多い。
感染性大動脈瘤の診断は、大動脈瘤壁やその周囲組織から細菌が検出され、炎症に伴う身体および検査所見があれば確診しうるが、既に抗菌薬が投与されている場合など、起因菌が検出されない症例も多い(25~50%)。そのような場合でも診断に有用なのが画像所見であり、中でもCT所見が最も有効である。CT所見において、嚢状とくに分葉状で急速に拡大する大動脈瘤、血管周囲に存在する軟部腫瘤状陰影、壁内・血管周囲にairを伴う大動脈瘤、血管周囲の液体貯留などは感染性大動脈瘤を強く疑う所見である。また炎症性大動脈瘤との鑑別も大切である。炎症性大動脈瘤と感染性大動脈瘤の身体症状は共通するものが多く、共に発熱、体重減少、腹痛などが見られることがあるが、炎症性大動脈瘤のCT所見に特徴的である血管外膜の繊維化を伴う層状の炎症性浸潤物の存在や、細菌感染(白血球増多、培養陽性等)を示唆する所見が認められないことなどから鑑別を行う。
感染性大動脈瘤の初期治療としては、血液培養の結果に先立ち、グラム陽性菌に対するバンコマイシンと共に、セフトリアキソン、フルオロキノロン、ピペラシシンタゾバクタムのようなサルモネラや腸内グラム陰性菌の働きを抑制する薬物を組み合わせたエンピリック治療が行われる。その後、血液培養の結果に基づき各々の感受性にあった抗生剤・投与期間が決められ、さらに手術が必要な患者に対しては、大動脈瘤の切除・血行再建術が行われる。近年の再建術においてはin situ人工血管移植術が標準術式となっており、術後感染の普及を予防するため、大網充填を行う症例も多く見られる。また大動脈瘤に対する血管内ステント留置術が普及しつつあるが、大動脈瘤が破裂しておらず、かつ外科的手術に対してリスクの少ない患者に対しては、選択的治療として血管内アプローチによるステント留置術より開腹手術が推奨される。理由として血管内ステント留置術では感染組織を取り除くことが出来ず、感染の再発が頻繁であり、救命に至らないことが多いからである。一方、手術を拒む患者、外科的手術に対するリスクが高い患者、動脈瘤破裂部分を覆うための暫定措置など血管内ステント留置術が好まれる場合もある。このように感染性大動脈瘤に対しては、様々な状況に応じて選択的に治療を行うことが大切である。
<参考文献>
・ハリソン内科学 第三版 P.1626
・Denis Spelman, Overview of infected (mycotic) arterial aneurysm,up to date, 10 18, 2011,5 9 2013
・大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン2011年改訂版(2010年度合同研究班報告)
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