注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BSL感染症内科レポート【急性骨髄炎と慢性骨髄炎の治療ストラテジーについて】
骨髄炎は病原微生物により組織の破壊をもたらす骨の感染症であり、臨床においては急性および慢性という区分がなされている。それぞれの治療法を考えるにあたっては、急性と慢性の違いを明確にしておく必要がある。自分は急性骨髄炎から慢性骨髄炎に至る転換点は、骨組織の血流停止であると考えた。機序は以下の通りである。
骨組織に病原菌が感染→感染に対し白血球が病変部に移動→白血球が病原菌を処理し膿が生じる→ →膿が血管を圧迫→血流が停止→血流を失った骨組織が壊死を起こし、病原菌を周囲から隔絶する |
この血流を失った壊死骨は腐骨と呼ばれ、慢性骨髄炎に特徴的な所見である。血流の停止により抗菌薬は病原菌まで到達することが困難になる。つまり抗菌薬のみでの治療が奏功しなくなるということであり、ここに急性骨髄炎と慢性骨髄炎との治療の違いが生じてくる。骨髄炎の進行は感染した骨や患者の状態によって異なってくるため、治療について標準的なガイドラインを一律に適用することはできない。このことをふまえ、内科的治療および外科的治療とも個々の症例を慎重に検討していく必要がある。
まず内科的治療として、静注による抗菌薬投与がある。急性骨髄炎では抗菌薬静注のみでも効果が期待できる。小児の急性血行性骨髄炎では、抗菌薬投与による治癒率は95%を超えている(1)。抗菌薬の適切な投与期間については議論があるものの、現在は4週間から6週間が最短の投与期間として推奨されている(2)。なお抗菌薬投与に際し原因菌の同定のために適切な検体を得る必要があるが、このとき検体は深部から得るよう注意しなければならない。骨や傷の表面には骨内に感染している原因菌が存在しない場合があるからである。
慢性骨髄炎の場合は前述の理由で抗菌薬のみでは奏功が期待できないため、外科的治療をあわせて行う。外科的治療の目標は、壊死骨を取り除き、血管新生が成される環境を作り出すことにある。そのためには、健常骨にまで至る徹底したデブリドマンが必要である。デブリドマンによって壊死骨除去のみならず、原因菌を同定するための検体も採取できる。その後、同定した原因菌に対する適切な抗菌薬の静注を開始する。骨の血管新生が行われるのに3週間から4週間必要とされることから、抗菌薬の標準投与期間は最低4週間から6週間が推奨されている(3)。ただし慢性骨髄炎の再発率は20%であり(4)、治療が成功したかどうかの判断には6か月の経過観察が必要である(2)。
以上のことから、急性期および慢性期骨髄炎の治療戦略は、以下のようなものと考える。
急性骨髄炎では適切な抗菌薬投与で骨壊死を防止することが目標であり、そのためには早期の正しい診断が求められる。一方慢性骨髄炎に移行してしまった場合は、骨壊死を除去すると同時に血管新生を促して再発を防止することが目標であり、そのためには徹底した外科処置と慎重な経過観察が求められる。 |
<参考文献>
1.Shorter courses of parenteral antibiotic therapy do not appear influence response rate for children with acute hematogenous osteomyelitis:Le Saux N,Howard A,Barrowman NJ,Gaboury I, Sampson M,Moher D.BMC infect Dis.2002;2:16
2.Harrison’s principles of internal medicine 18th edition, Longo DL et al., 2012 New York
3.J.peter Rissing et al., Antimicrobial Therapy for Chronic Osteomyelitis in Adults:Role of the Quinolones. Department of Medicine, Medical College of Georgia, Augusta 30912-3130, USA
4.Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th EDITION, 2010
5.Daniel P Lew, Francis A Waldvogel et al., Osteomyelitis. Lancet 2004;364:369-79
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