日本人は足し算の理論に弱い、、という話をした。足し算の最たるものがポリファーマシーである。
そのポリファーマシーをまとめた本が徳田安春先生の編集で出版された。ぼくが知る限り、日本で初めての試みであり、世界でも例が少ない。
本当に、日本ではポリファーマシーは深刻な問題である。その理由は、医者側にも患者側にもある。
1.検査を正常化しようとする。異常値は全部直さないといけないと信じている。
2.臨床的アウトカムを吟味しない。
3.薬のリスクを吟味していない。
4.薬の相互作用を吟味していない。
5.他科の診療に関心がない。お薬手帳をチェックしていない(薬剤師も)。
6.患者が薬をやたら欲しがる。
などなどが、日本の病理である。
本書は日本のポリファーマシーをあちこちから吟味しており、非常に役に立つ。ぜひすべての医学生、薬学生、医師、薬剤師、ナース、できれば患者など多様な人達に読んで欲しいと思う。
アメリカでは毎年400万人以上の救急室受診が薬物関連で、そのうち半分は処方薬、27%はover the counter薬OTCである。最近、NHKのクローズアップ現代でも風邪薬OTCでも安全とは言い切れないことが指摘されていた。僕自身、いわゆる「総合感冒薬」は買わないし、飲まない。抗菌薬は論外だ。外来でもPLみたいな総合薬は出さず、あくまでも患者の症状に応じて西洋薬あるいは漢方薬を出す。処方薬でもOTCでもリスクフリーということはありえない。たくさん処方していれば必ず一定の割合で副作用はでる。予測できるものもあるが、予測不可能なことも多い。
9ページの「高齢者で使用を避けたほうが望ましい薬剤」だけは、せめて医療者全員に知っておいて欲しい。結構出てまっせ。それは、
フルラゼパム、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)、
ロラゼパム(ワイパックス)、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)、トリアゾラム(ハルシオン)、エチゾラム(デパス)の高容量
クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、クアゼパム、クロラゼプ酸
ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)、フルトプラゼパム、メキサゾラム、ハロキサゾラム、クロキサゾラム
ガバペンチン
インドメタシン
ナプロキセン、オキサプロジン、ピロキシカム、ペンタゾシン高容量、長期
アンフェタミン、アマンタジン、MAO阻害薬、アミトリプチリン(トリプタノール)、ミルナシプラン
オランザピン(ジプレキサ)
ジシクロベリン、プロパンテリン、チメピジウム、メチルスコポラミン、メチルオクタトロピン
ジゴキシン、ジギトキシン、ベスナリノン、ジソピラミド
アミオダロン(アンカロン)
ピルジカイニド(サンリズム)、レセルピン、メチルドパ(アルドメット)
ドキサゾシン(カルデナリン)
クロニジン(カタプレス)
プラゾシン(ミニプレス)
ペルサンチン、アダラート、ワソラン、磯くすプリン、メシル酸ジヒドロエルゴと寄進、プロプラノロール(インデラル)、シメチジン(タガメット)
H2ブロッカー
スルピリド(ドグマチール)
ビサコジル、カスカラサグラダ、ひまし油
乾燥甲状腺(チラージン)ただし、チラージンS(レボチロキシン)を除く。
メチルテストステロン
エストロゲン経口製剤単独
硫酸第一鉄(フェロ・グラデュメットなど)
チクロピジン(パナルジン)
クロルプロパミド
ジフェンヒドラミン(レスタミン、ベナ)
アレルギン、アタラックス、ペリアクチン、ポララミンなど
(一部一般名、商品名混在しました、、)
ぼくは研修医時代、とにかく8剤以上使っている場合はなんでもいいから減らせ、と教えられた。もちろん暴論だが、説得力ある経験則で、8剤以上入っていると、そもそも相互作用など予測ができなくなってしまう。
リスクはあくまで双方向性であり、薬を処方することでそれは「チャラ」にはできないこと。もう少し多くの人に理解してもらいたいと思う。ちなみにこの本は、ありがちな「なんだも薬害」的煽り本じゃないよ。あと、どうでもいいけど後半の天理よろづのところは急にぽかっと入ってきて理解できなかった。なんで?
国民皆保険実現と経済の高度成長が重なってしまい、厚生省がそれまでの制限診療から一転して拡大の方針に転じてから、日本の医療は根本的におかしくなっています。かつての馬処方、検査・治療の適応拡大はもうほとんど病気ですね。このまま、超高齢化社会に突入したら、弱肉強食の惨憺たる状況になりそうな予感がします。
投稿情報: 志朗 坂口 | 2012/12/18 17:46