メディカル朝日の記事に憤慨している。「小児の急性中耳炎における耐性菌の現状と治療戦略」という小論だが(メディカル朝日10月号42−43ページ)、次のように記載されている。
「09年版(中耳炎ガイドライン)が公表されてから、急性中耳炎に効果のある薬剤が2剤、市販された。一つは肺炎球菌に著効する経口カルバペネム系薬であるテビペネム・ピボキシル(オラペネム(R) 小児用細粒10%)である。もう一つはトスフロキサシン(オゼックス(R)細粒小児用15%)で、特にインフルエンザ菌に感受性が高く、初めて乳幼児に保険適応になったニューキノロン薬である」
憤慨のままにまず揚げ足をとっておくと、「肺炎球菌」に著効する薬などない。菌は病気ではないからであり、あくまでも「肺炎球菌感染症」が治療のターゲットだ。「こと」である感染症と「もの」である微生物の混同は、意識下においていろいろなトラブルの遠因となる。「くっついているだけ」のMRSAを治療したりさせるのだ。
もう少し本質的な話をしておくと、肺炎球菌感染症にカルバペネムは必要ない。著効しようが(意味不明だが)しまいが、関係ない。感染症診療においてはAがBに効く=AをBに使う、とはならない。肺炎球菌による急性中耳炎でもたいていは抗菌薬なしで治癒するし、そうでなくてもサワシリンなどで治癒するのが大半だ。経口カルバペネムには必然性がない。キノロンも同様である。メディカル朝日が多くの非専門医が目にするアクセスの良い媒介であることを考えると、極めてミスリーディングな文章である。
そういえば、シタフロキサシン(グレースビット)も昔、「肺炎球菌に極めてよく効くキノロン」的宣伝をしていたな。あれも同じ根拠で間違っている。
昨日、うちの6年生が病院実習で研修医が「とりあえずクラビット」を処方しているのをみて、「それはいかんのじゃないか」という実習発表をしていた。感染症内科をローテートしていた別の6年生は、うちの後期研修医が院内肺炎にゾシンを使っていたが、喀痰培養陰性だったのでユナシンにde-escalationすべきだったのではないか?と疑義を呈していた。このような対話、弁証法からより妥当な診療の姿が立ち現れる。「上の先生がこういっていました、、」みたいな伝言板のような発表を大学生はしてはいけないのだ。しかし、多くの医師はこのような葛藤もないまま、「上の先生がそうやっていた」「MRに勧められた」という理由で安易に広域抗菌薬を処方する。
さて、市井に経口カルバペネムが存在するのは世界的には極めて奇妙な現象である。それが奇妙な現象であることを明らかにした論文が最近IJIDに発表された。オーストラリアの林先生たちの論文である。とても興味深い論考なので、ぜひご一読いただきたい。
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