注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
不明熱は古典的不明熱、院内不明熱、好中球減少性不明熱、HIV関連不明熱の4つに分類されている。
古典的不明熱とは「38.3℃以上の発熱が3週間以上の間に何度か認められ、3回の外来受診または3日間の入院で原因がわからないもの」と定義されている(1)。主な原因は①感染症(26%)、②腫瘍(13%)、③非感染性炎症疾患(24%)、④その他(8%) である(2)。鑑別疾患の一部を挙げると、
①感染症:肺炎(4%)、膿瘍(4%)、尿路感染症(3%)、CMV感染症(3%)、心内膜炎(2%)、結核(2%)など
②腫瘍:血液悪性腫瘍(8%)としてホジキンリンパ腫(3%)、非ホジキンリンパ腫(2%)、急性白血病(1%)など、固形癌(5%)として乳癌(2%)など
③非感染性炎症疾患:膠原病(11%)として成人Still病(4%)、混合性クリオグロブリン血症(3%)、SLE(1%)、リウマチ性多発筋痛症(1%)など。血管炎(8%)として側頭動脈炎(2%)、多発性結節性動脈炎(1%)など
肉芽腫症(4%)として炎症性腸疾患(1%)(クローン病、潰瘍性大腸炎)、サルコイドーシス(1%)など
④その他:薬剤熱(2%)、詐熱(1%)、DVT(1%)、甲状腺機能亢進症(1%)など が挙げられる(2)。
さて不明熱に対して抗菌薬やステロイドを使用すると何が問題となるかについてであるが、それは確定診断がつく前にこれらの薬物を安易に使用することにより診断が困難となり、その結果適切な治療がなされない可能性があることにあると考えた。例えばTalらの報告によると、不明熱の原因の約1/3が膿瘍や感染性心内膜炎(IE)、結核など治療可能な疾患であることが示されている(3)。しかしながらこのような疾患に対して不用意にステロイドが投与され一時的にでも症状が改善してしまった場合は、真の病気が見逃されてしまう危険がある。また別の報告では、結核患者にて診断前にニューキノロン系抗菌薬が使用されていた場合は、使用されていない場合と比較して、診断がついてから治療が開始されるまでに16日間の差が生じたとされている(4)。これは盲目的に投与された抗菌薬により結核が部分的に治療され、その結果培養が陰性化するなどして確定診断および治療が遅れた典型例である。IEについてみてみると、診断が困難になることもさることながら、その後の治療が大きく左右されることが考えられる。表1のとおり現在IEの起因菌としては黄色ブドウ球菌、緑色連鎖球菌などのものが示されている(5)が、ガイドライン(6)によると、そのそれぞれの起因菌について治療薬が細分化されており、菌の同定を行ってから治療を開始することの重要性が強調されていた。 表1 IEの原因微生物とその頻度
また培養前に既に抗菌薬が開始されているなどの理由により培養 黄色ブドウ球菌:32%
が陰性であるIEについても、患者状態の如何によっては薬をい 緑色連鎖球菌:11%
ったん止めてから再検するなど、可能な限り菌の同定に努めるこ 腸球菌:11%
とが重要であるとされていた。これらを曖昧にし、症状が出た度 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌:11%
に適当な抗菌薬治療が行われれば、弁破壊が進行してしまう可能 Streptcoccus bovis:7%
性があるなど、患者が被る被害は多大なものがある。 他の連鎖球菌:5%
以上の理由から我々は、不明熱患者に対しステロイドや抗菌薬 非HACEKのグラム陰性桿菌:2%
を使用は問題であると考えた。確かにこれらの薬物は、患者が訴 HACEK:2% (Fowlerら 改変引用)
える発熱や疼痛などのcomplainを改善しうるという意味で、良好な医師‐患者関係を築いていく上では重要な薬物であることは間違いない。しかしながら、だからといってこれらを安易に投与することは、結局のところ医療者側および患者側双方の不利益につながることになる。不明熱患者の診療において重要なことは、原因が特定できるまで患者の観察やあるいは検査を繰り返し頭を使うことであり、考えることを止め診断がつく前に“場当たり的に”抗菌薬やステロイドを使用することでは決してない。
<参考文献>
1. Harrison’s principles of internal medicine 18th edition, Longo DL et al., 2012 New York
2. de Kleijn EM et al: Fever of unknown origin (FUO). I A. prospective multicenter study of 167 patients with FUO, using fixed epidemiologic entry criteria. Medicine 76:392,1997
3. Tal S. et al., Fever of unknown origin in the elderly. J Intern Med. 2002; 252(4):295-304.
4. Dooley KE et al:Empiric treatment of community-acquired pneumonia with fluoroquinolones, and delays in the treatment of tuberculosis. Clin Infect Dis. 2002 ;34:1607-12.
5. Fowler VG et al., Staphylococcus aureus endocarditis: a consequence of medical progress. JAMA. 2005; 293(24):3012-21.
6. 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版) 日本循環器学会他
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