ま、さっき紹介した「美味しんぼ」などは典型的な「ゼロリスク」の罠にはまった作品といえる。漫画としては極めて面白いし、アンチ・バブルのメッセージを肯定的に受け止めるにせよ、リスクに対するナイーブさはちょいといただけない。化学調味料、農薬、発がん物質、、、といった名前がでると思考停止になって全否定、というのが典型的な非科学的ナイーブさの表象だ。
本書「ゼロリスク社会の罠」が訴えていることは、誠実な科学者ならだれでも訴えていることで、その内容には特に目新しいものはない。しかし、その一方で科学者のほとんどは、「態度」として誠実さを示していないのもまた事実。メディアやネットで流れる流言飛語の類を「見て見ぬふり」をしているコンプレーセントなサイエンティストはすごく多い。
本書のような声をもっともっと上げていく必要がある。メッセージは同じでも、手を変え品を変え、事例を変えて説明していく。エコナについて、メタミドホスについて、ホメオパシーについて、「血液さらさら」について説明し続けていく必要がある。ポリフォニックな声は力を生む。「あの人も同じ事を行っていた」というのが大事なのだ。
本書では、定性思考から定量思考へ。分母が大事。「ない」ことの証明は困難、といった「リスクと科学における常識」を、しかし、メディアがあまりにも無神経、無配慮な部分を丁寧に解説した本である。文章は明快で論拠は分かりやすく、例え話も適切かつ、納得がいく。特に化学構造式の解説や「化学物質とは」といった説明はぼくら臨床屋にはうまく説明できるものではなく、秀逸だ。ジャーナリストはみんな、この本を読んだほうがよいよ。残念ながら、日本のメディアにおいて、分母を無視した新聞記事やテレビのニュースを目にしない週はないのだから。
「美味しんぼ」から「もやしもん」へ。佐藤氏のような論調はバブル時代にはあまりうまく伝わって来なかった。しかし、ポスト311の今こそ、このような「定量思考」を伝え、党派性(自然なものはよい、みたいな)に陥らず、静かで丁寧な口調でメッセージを伝え続けていくことができるのだと僕は信じたい。そして、本書の
「リスク判断の面倒さから逃げるな」134ページ
というメッセージを、僕も声を大にして訴えたい。
しかし、日本人には熱帯熱マラリアには免疫力がないと言われていますが、それでも日本で鳥インフルエンザのようにマラリアのpandemicがそれほど温暖化の影響以外ではひろがらないだろう〔勝手にそう感じてます〉と危惧されていないのは、行政のおかげなんでしょうか?それともたまたま防げているのでしょうか。
ps
感染症999の謎は本当に読みやすいです。訳して頂きありがとうございます。感染症学に大変惹かれました。
投稿情報: TkTinpo | 2012/09/19 19:40
蚊も入ってくる可能性はあります。というか、ハマダラカは日本にもいます。
投稿情報: georgebest1969 | 2012/09/19 05:48
記事に関係ないのですが、質問があります。
なぜ日本にもともといないとおもわれている大型のクモや亀などが簡単に密輸されるのにマラリアを運ぶ蚊は日本にやってこないように見えるんですか。
投稿情報: TkTinpo | 2012/09/19 01:07