今回、縁あって南相馬市立総合病院を訪問しました。前職でいっしょだった原澤慶太郎先生や坪倉正治先生がご勤務されている病院だ。こちらのICN西畑利恵子さんと原澤先生に病院を案内していただき、感染管理、感染対策について病院長の金澤先生も交えてご提案させていただいた。
通常、アメリカでの感染症フェローシップには感染管理のトレーニングはあまりたくさんは入っていない。したがってアメリカでボードをとった専門医たちも感染管理業務は苦手、という人は少なくない。もちろん、自らサーベイランス・システムを立ち上げた青木眞先生とか、手稲の本田先生のような例外はいらっしゃるけど、青木先生たちはどう考えても一般化できない例外事象である。
あまり知られていないことだが(別に知らなくても良いけど)、僕は縁あってアメリカで内科研修医をしていた時から病院の感染管理コミティー・メンバーで、ICPたちと結核隔離の研究をしていた。感染症フェローになっても感染管理室に机をおいて委員会に出たり門前の小僧で感染管理業務にタッチしていたこともあって、この領域には親和性が高い。その後、亀田総合病院では感染管理室長をやっていたけど、今はこの領域はノータッチだ。
ただ、ぼくはこういう場合、テクニカルな話をほとんどしない。ましてやCDCのガイドラインにどう書いてあるみたいな話は、まずしない。ぼくが初めておじゃました病院でお伝えすることは、次のようなことだ。
1.患者はよくなるために病院に来ている。入院中に感染症で急変することは医療者には日常だが、患者には想像だにしていなかった変事である。よくなるために入院した患者が病院で悪くなったり死んだりするのは医療者としても患者としても本意とするところではない。だから、適切な感染対策をし、感染症で苦しむ患者を減らすのは医療者としては当然のことなのである。
2.感染管理や抗菌薬適正使用はめんどくさく感じられるが、病棟で急変する患者が減り、つつがなく退院してくれれば実はナースやドクターの負担は減る。適切な感染対策は、実は医療者の負担を減らし、病棟を明るくする最短の近道なのである。
3.そういう意味で、ICTと主治医たち医療者と、患者の目指すところは皆同じでまったく異なるところはない。我々は同じ方向を向いている。対立者ではない。感染管理チームは「管理者」ではなく、「支援者」である。ICTは患者と医療者と病院の味方である。
4. 工夫次第で感染症は減らすことができる。病院内感染はそんなにヴァリエーションがなく、肺炎、尿路感染、カテ感染、創部感染、プラス褥瘡とかCDIがこれに付随する(ことがある)。特にカテ感染は工夫を重ねれば、限りなくゼロに近づけることができる。
5. カテ感染を減らすためには、そして減ったと認識するためにはカテ感染を診断することが大事である。カテ感染は実は「カテ感染」ではない。「カテーテル関連血流感染」の略であり、あれはあくまでも「血流感染」なのである。「カテ感染」では、大多数でカテの刺入部に所見はないことが多い。血流感染である「カテ感染」を診断するためには、血液培養が必須である。
6.目的を明確にすることが重要である。感染症を減らし、感染症を直し、耐性菌を減らし、患者をよくし、病院がよくなるのが目的である。回診、会議、講演会、届出制、マニュアル、書類の類はあくまで「手段」であり、目的ではない。手段を目的化してはいけない。
7.今のマンパワー、リソースでできること、継続できること「だけ」をやるべきだ。教科書に書いてあること全部をやる必要はない。学会や他者に「見せる」ために仕事をする必要もない。感染対策がうまくいくと、病院の「温度」が数度上がり、よくなっていることが全員に実感できる。そのことが、最も大事なのだ。サーベイランスは実施・継続が可能な場合にのみ行い、サーベイランスすることそのものを目的にしてはいけない。
8. すべてのプレイヤーは仲間である。感染対策に従事するものは全員仲間である。仲間を閉めだしてはならない。感染管理者と感染治療者、薬剤部、検査室、みな仲間である。外的にこれらのセクションが「異なること」を言ってはいけない。ぜったいにいけない。例えば、神戸大学病院感染症内科と感染制御部のオフィシャルコメントは常に100%整合性が取れており、外的に対立することは絶対にない。内輪で口角泡を飛ばす激論になったとしても、である。これはプロとしての嗜みの問題だ。
9.感染支援は常に楽しい。
10.できるだけ顔を見せ、声を聞かせること。書面、ファックスの通知はメッセージが届かない。
まあ、こんな「大きな」「大雑把な」話ばかりである。細かいテクニカルな話はこの業界の専門家にお任せすれば良いとぼくは思っている。院内ならICNにお任せするのが一番うまくいくことが多い。南相馬でも、このうちいくつかを、お伝えすることができた。
でも、病院見学して、いろいろなお話を聞いて、勉強させていただいたのはむしろ僕の方であった。震災後の南相馬と病院の変遷、現在の生活、放射能の話、その他諸々の問題点、、、本当に深刻な問題がたくさんあることを教えていただいた。逆に、病院もコミュニティーもそれはそれとして日常があることもあらためて教えていただいた。夏休み中の高校生が電車でだべり、結婚式が、出産が、子育てが、行われている日常だ。
去年に比べて恐ろしくきれいになった仙台空港から、電車とバスを乗り継いで訪問できて本当に良かったです。原澤先生、西畑さん、お仕事中におじゃましたナース、薬剤師さん、技師さん、ドクターの皆様、本当にありがとうございました。今後もお体を大事に、ご活躍ください。健闘をお祈り申し上げます。
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