注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
感染症内科レポート
精巣上体炎
疫学
精巣上体炎は感染性と非感染性のものに分けられる。感染性の精巣上体炎はさらに尿路感染症の原因微生物によるものと性感染症の原因微生物によるものに大別される。
35歳以上の男性では尿路感染症の病原体による精巣上体炎が多い。したがって原因微生物はEscherichia coli、Pseudomonas aeruginosaなどである。一方、35歳以下の性的活動期にある男性では性感染症性の精巣上体炎が多い。原因菌はChlamydia trachomatisが最も頻度が高く、Neisseria gonorrhoeaeも原因となるがそれほど多くない1)。ただし肛門性交をした男性では、35歳以下でも尿路感染症性の精巣上体炎と同様にE.coliなど腸内細菌が原因となる。
感染性ではその他に結核が原因となり結核性精巣上体炎を起こす。また、非感染性の原因として外傷、ベーチェット病、薬剤性(amiodarone)などが挙げられる2)3)。
診断
病歴、身体所見により診断し、検査で原因菌を同定する。
・病歴、身体所見
基本的臨床像は片側の陰嚢の腫脹、疼痛である。陰嚢皮膚が発赤していることもあり、ときに発熱もみられる。両側性の精巣上体炎は少ない3)。
鑑別診断には精巣腫瘍、精巣捻転などがあり、診断において超音波検査が重要となる。急性精巣上体炎では、エコー輝度が上昇し腫大した精巣上体尾部がみられ、炎症の進行とともに体部から頭部の腫大を伴う。また、ドプラ法では患側精巣上体や精巣の血流シグナルの増強が認められることが多い。精巣腫瘍は超音波検査で正常精巣組織よりエコー輝度が低く不均一な像となり、精巣捻転はドプラ法で患側精巣内部の血流が低下あるいは消失する4)。精巣捻転は緊急手術の適応であり、鑑別が困難な場合には試験的手術が必要となる。
35歳以下でC.trachomatisなどによる尿道炎の既往があり、尿路感染症の既往などがなければ性感染性のものを疑う。一方、35歳以上でE.coliなど尿路感染症に関与する微生物による精巣上体炎では、前立腺炎や尿路感染症、泌尿器系の手術の既往があることが多く、逆に尿道炎の既往は少ない。
陰嚢が腫大し精管が数珠状に触知されるときは結核性精巣上体炎を疑う。
・検査
C.trachomatis、N.gonorrhoeaeに対して核酸増幅検査を行う。また、E.coliなど腸内細菌を対象に尿培養を行う5)。結核性精巣上体炎を疑う場合には、尿中結核菌の検出のためZiehl-Neelsen染色や抗酸菌培養が必要である。
治療
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抗菌薬6) |
その他の処置7) |
尿路感染症性 |
レボフロキサシン500mg経口1日1回またはオフロキサシン300mg経口1日2回を10日間行う。 |
N.gonorrhoeaeはフルオロキノロン耐性株の危険があるため、尿中の核酸増幅検査を行い菌が存在しないことを確認する。 |
性感染症性 |
セフトリアキソン250mg筋注とドキシサイクリン100mg経口1日2回を10日間行う。 |
35歳未満の患者はHIVおよび梅毒の検査を受けなければならない。 |
いずれも加えて一般療法として安静臥床、陰嚢挙上、陰嚢局所の冷罨が重要である。鎮痛薬も使用する。なお、全ての患者において、原因菌が同定されるまではセフトリアキソンとドキシサイクリンによるエンピリック治療を行う6)。結核性精巣上体炎は肺結核の治療に準ずる。
経過観察・予後
3日以内に症状が軽減しなければ、診断と治療の再評価を行う2)。患者が抗菌薬療法に反応しないときは、精巣腫瘍や結核性精巣上体炎の可能性を検討すべきである。
合併症として膿瘍形成、精巣梗塞症、不妊、慢性精巣上体炎が挙げられる。
参考文献
1) ハリソン内科学 第3版
2) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases Seventh Edition
3) M. Ludwig. Diagnosis and therapy of acute prostatitis, epididymitis and orchitis. Andrologia. 2008, 40, p.76-80.
4) 村井勝, 塚本泰司, 小川修編. 最新 泌尿器科診療指針. 永井書店.
5) 青木眞著. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2版, 医学書院.
6) Robert C Eyre. “Evaluation of the acute scrotum in adults” Up to date, Last updated on 2012/11/02.
7) 日本語版 サンフォード感染症治療ガイド2012 第42版
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