注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
旅行者下痢(Traveler’s diarrhea;TD)
|
小腸 |
大腸 |
細菌(80%以上) |
腸管毒素原性大腸菌(ETEC)(15-50%)、サルモネラ(5-10%)、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、コレラ菌(0-10%)、Clostridium perfringens、Aeromonas (5%) |
腸管凝集性大腸菌(EAEC)(10-25%)、カンピロバクター(3-15%)、赤痢菌+Enteroinvasive E.coli(10-25%)、Plesiomonas shigelloides(5%)、Klebsiella oxytoca、エルシニア、クロストリジウム・ディフィシル、Vibrio parahaemolyticus、 |
ウイルス(5-10%) |
ロタウイルス、ノロウイルス |
CMV、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス |
寄生虫(10%) |
Cryptosporidium(2%)、Cyclospora(<1%)、ランブル鞭毛虫(<2%) 、Microsporidium、Isospora |
赤痢アメーバ(5%) |
旅行者下痢をきたす原因微生物には上表のようなものがある。
その中で、海外旅行から帰国したあと下痢を起こした患者の中で病原体が検出されたものとして最も多いのは、細菌性であり、次いでウイルス性、寄生虫性である。
【細菌】
・ (腸管毒素原生大腸菌)ETEC/(腸管凝集性大腸菌)EAEC
東南アジアやアフリカなどからの帰国者に多く見られる。潜伏期間は数時間から3日で、水を介して感染する。主症状は水様性下痢、軽度の腹痛で、発熱・嘔吐はまれである。通常、ETECでは血便、便中白血球は見られない。EAECでは発熱がみられることもある。症状は5日程度で収まる。しかし重症例、特に小児の場合コレラと同様に脱水症状に陥ることがある。治療において最も大事なのは体液や電解質の補正である。ただし症状罹患期間を短縮したい場合は抗菌薬を投与することもある。抗菌薬としては、非吸収性の抗生物質のリファキシミン(200mg 経口 1日3回 3日間)が用いられる。リファキシミンとロペラミドの併用では単剤使用に比べて症状の改善が早くなったという報告がある。以前は、その他にニューキノロン系抗生物質のシプロフロキサシン(500mg経口12時間ごと3日間)またはレボフロキサシン(400mg経口24時間ごと3日間)も用いらていたが、最近ではキノロン系に耐性を持つ菌が増えてきたことでリファキシミンに注目が集まっている。
【寄生虫】
・ 赤痢アメーバ
メキシコやタイからの帰国者に多く見られる。潜伏期間は2~6週間である。腹痛、下痢、倦怠感、体重減少をきたし、便の性状は血液、粘液が混ざる。発熱は起こすことのほうが少ない(40%未満)。
腸管外感染により、他臓器(特に肝臓)に感染し膿瘍を形成する。アメーバ性肝膿瘍は95%が帰国後5ヶ月以内に発症する。発熱、右季肋部痛、肝全体の圧痛、右側の胸水をきたすが、患者のうち10~15%は発熱しか見られない。
感染に対しての治療は、メトロニダゾール(750mg経口1日3回10日間)またはチニダゾール(2g1日1回のみ、あるいは1日3回3-5日間)で行う。保菌者に対しては、ヨードキノール(650mg経口1日3回20日間)またはパロモマイシン(25-35mg/kg/日経口1日3回7日間)が推奨される。
・ ランブル鞭毛虫
インド半島からの帰国者で特に多く、水や食品を介して感染する。潜伏期間は1〜2週間である。腹痛、下痢、悪心、食欲不振、体重減少、倦怠感、脂肪便をきたす。下痢は、初期には水様性で後に泥状便となる。発熱や嘔吐、テネスムス、血便、便中好中球は通常見られない。症状は通常1〜数週間で消失する。また性的に活発な男性同性愛者でもみられる。治療はメトロニダゾール (250mg経口1日3回5-7日間)が用いられる。
【補液】
各原因微生物に対する薬剤治療は上記に示した通りだが、最も大事なことは喪失した水分、電解質を補うことである。
WHOが推奨している補液は1LあたりNaCl 3.5g NaHCO3 2.5g KCl 1.5g グルコース 20g スクロース 40g
である。
【参考文献】
臨床感染症ブックレット1 第1版 柳秀高 文光堂 2011 p27
感染症診療 スタンダードマニュアル 第2版 青木眞 羊土社 2010 p243-265
Mandell,Douglus,and Benett’s PLINCIPLE AND PRCTICE OF Infectious Disease p1362,1364-1367,1390-1393,2822,3528-3533
Up to date Traveler’s diarrhea Christine A Wanke,MD 2012
ハリソン内科学 第3版 福井次矢 メディカルサイエンスインターナショナル
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。