注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
尖形コンジローマcondylomata acuminata
【概要】
米国で最も一般的な性感染症の一つであり、男女どちらにも発症する。HPV感染により引き起こされ、感染病変部位との直接接触が原因となる。HPVの潜伏期間は3週間~8ヶ月で、すべての扁平上皮に感染する可能性があり、表皮角化、不全角化、角質増殖を引き起こす。尖形コンジローマの90%はHPV6、11型が原因である2)
【リスク因子】1)
性行為全般、sex partnerが多いことがあげられる。他のSTD、口腔ヘルペスの既往、HIV陽性、CD4陽性T細胞の減少(<500 cells/μl)、もリスク因子となる。
【症状】1)
疣贅の数が少ない場合はしばしば無症候性であるが、掻痒感、出血、灼熱感、圧痛、帯下の増量、痛みを感じる場合もある。
【診断】
肉眼でみることのできる疣贅は病歴と診察のみで診断可能である。色は皮膚色またはピンク色で、外方に角質増殖性に増殖する丘疹が、外生殖器や肛門周囲の皮膚や粘膜表面にみられる。その外観は乳頭状、鶏冠状あるいはカリフラワー状と表現される。膣内、子宮頸部の病変は扁平な病変を形成することが多く、コルポスコピーによる評価が重要である。1)
鑑別診断として第2期梅毒の扁平コンジローム、伝染性軟属腫、真珠性陰茎丘疹、良性や悪性の皮膚粘膜腫瘍などがあげられる。2)
まれに腫瘍化することがあり、肛門周囲に尖形コンジローマの病変と同時に扁平上皮癌が生じることがある。潰瘍化している病変、治療に反応しない、6ヶ月たっても回復しない場合は生検をするべきである。免疫不全患者、40歳以上、大きく色素性で非典型的病変は悪性を示唆する所見である。1)
【治療】
20~30%が3ヶ月で自然消退する。主な治療法は薬物療法(ポドフィリン、トリクロロ酢酸、5-FU)、免疫学的療法(イミキモド、インターフェロンα、Sinecatechins)、外科的治療(切除、液体窒素による凍結法、CO2レーザー蒸散法、電気メスによる焼灼法)の3つであるが、どの治療を行っても治療後6ヶ月以内に30~70%で再発する。1)
日本では保険適用となるのはイミキモドと外科的治療であり、イミキモドの局所療法と液体窒素による凍結法が主流である。イミキモドは72~84%の患者に効果があり、再発率が5~19%と少ない。4)投与期間は、5%クリームを週3回×16週間、または3.75%クリームを1日1回×8週間である。1)粘膜病変には使用できない、塗布してから6~10時間後に洗い流さなければならないという煩雑さがあるのが欠点である。一方、凍結法は尿道など綿棒が届かない場所以外であればどこにでも適用できるという利点がある。
なお、日本では使用できないが、トリクロロ酢酸やポドフィリンを使用できる施設は、トリクロロ酢酸またはポドフィリン単独、もしくはその後イミキモドまたはポドフィロックスを処方するのが最も良いとされている。1)薬物療法や凍結法が有効でない場合や病変が1~2cmと大きい場合は、レーザー療法、外科的切除が推奨される。
【予防】
HPV6型、11型、16型、18型を含む4価のワクチン製剤(Gardasil)が米国で認可され、9~26歳の女性に投与することがCDCにより推奨されている。2)Gardasilは日本では2011年8月から販売され、HPV 6 、11、16、18型に関連したCIN(cervical intraepithelial neoplasia) 1/2/3、AIS(adenocarcinoma in situ)、VIN(vulvar intraepithelial neoplasia) 1/2/3 、VaIN(vaginal intraepithelial neoplasia) 1/2/3 、尖圭コンジローマの発生率低下に有効である。無作為化プラセボ対照二重盲検試験であるFUTURE(Females United To Unilaterally Reduce Endo/Ectocervical Disease)Ⅰ試験では尖形コンジローマの発生はワクチン接種群では0/2261人、プラセボ群では48/2279人で、予防効果は92~100%(95%CI)であった。4)
接種時に感染が成立しているHPVの排除、及び既に生じているHPV関連の病変の進行予防効果は期待できないので、HPV感染が成立する前に接種する必要があり、日本では9歳以上の女性に一年以内に3回接種することが推奨されている。
コンドームは完全ではないが、HPV感染予防に重要である。また、本人が治癒してもパートナーがHPVを保持している場合は再感染の可能性があるので、パートナーもかならず専門家を受診することが大切である。
参考文献
(1) Condylomata acuminate(anogenital warts).In UpToDate, Shilpa Grover(Ed). [閲覧日2012/7/9]
(2)ハリソン内科学第3版 pp.1172~1175 メディカル サイエンス インターナショナル
(3) Garland SM et alQuadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent anogenital diseasesN Engl J Med. 2007;356(19):1928.
(4) Gunter J. Genital and perianal warts: new treatment opportunities for human papillomavirus infection. Am J Obstet Gynecol. 2003;189(3 Suppl):S3
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