注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
BSL感染症内科レポート
マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎
2011年にはM. pneumoniae のマクロライド耐性率は89.5%に達したと報告された。マクロライドは菌の蛋白合成に重要な23SrRNAのドメインVに結合することでそれを阻害する。しかし、菌の遺伝子点突然変異(A2063G,A2064G)によりその部分の立体構造が変化し、マクロライドの結合率は低下する。蛋白合成が阻害されずに菌は生き延びることができる。
このように耐性率は高いものの、マイコプラズマ肺炎の初期治療はマクロライドが基本と考える。その理由について以下の項目があげられる。
1 マイコプラズマの症状は緩徐で上気道症状が主体であり、肺炎に至るのは3~10%ほどであり、無治療でも抗菌薬を用いた場合に比べて、回復時間に差はあるものの、咳や倦怠感が長くて1ヶ月ほど続くだけであり、死亡率も低い。2) そのため抗菌薬が万人に必要であるとは考えにくい。
2 マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎をマクロライドで治療しても平均2〜3日程度発熱期間が延びるだけで,自然治癒する傾向が強い。今のところ重症化する傾向が強いという報告はない。³⁾
3、マクロライド以外の抗菌薬として耐性菌にも有用とされているテトラサイクリンとニューキノロンは小児では副作用のriskも高い。テトラサイクリンはエナメル質形成不全、歯牙色素沈着があり8歳以下では禁忌、キノロンでは軟骨障害などの副作用がある。よって使用には、これらの副作用をふまえた上で検討しなければならない。実際、小児呼吸器感染症のガイドラインでは、耐性の有無が不明な場合の初期治療はマクロライド系抗菌薬の投与し、投与後も48時間以上発熱が続き、マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎を疑った場合にこれらの薬剤の使用が推奨されている。³⁾
但しマイコプラズマ肺炎を疑ってマクロライドを投与中にもかかわらず、肺炎が増悪した場合、とくに基礎に免疫不全がある場合は速やかにテトラサイクリンあるいはニューキノロン系の薬剤への変更を考えるべきである。
以上のことから、基本的にはマイコプラズマの初期治療はマクロライドであり、マクロライド以外の薬剤に対しても耐性ができる可能性があるので、ただ単にマクロライド耐性という言葉だけに囚われてむやみに初期治療からそれ以外の薬剤を使うべきではないと考える。
参考文献
1)薬剤耐性マイコプラズマの現状と今後の展望 成田光生 モダンメディア 53巻11号2007
2) Mycoplasma pneumoniae pneumonia
Mansel JK, Rosenow EC 3rd, Smith TF, Martin JW Jr Chest. 1989;95(3):639.
3)小児呼吸器感染症ガイドライン2011
4)小児におけるマクロライド高度耐性・肺炎マイコプラズマの大流行 IASR
5)Suzuki S., Yamazaki T., Narita M., et al.: Clinical evalua-tion of macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae.Antimicrob Agents Chemother. 50 : 709 -712, 2006.
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