とても難しいトピックをよくまとめてくれました。何だかよく分からない、、、からいろいろ調べてこことここが分からないことが分かった、、、は大きな飛躍です。
MACのIRIS
免疫再構築症候群(IRIS)とは、antiretroviral therapy(ART)を開始した後に、もともと存在していた未治療または治療不完全な日和見感染症が悪化するという一見矛盾した現象のことである1)。IRISはベースラインのCD4が低ければ低いほど、ウイルス量が多ければ多いほど発症しやすく、ARTによるCD4の上昇が早いほど、ウイルス量の低下が激しいほど発症しやすい2)。
本邦では、Nontuberculous Mycobacterium (NTM)はIRISの原因となる病原微生物として帯状疱疹ウイルスに次いで2番目に多く、そのなかの大部分がMycobacterium avium complex(MAC)である。
厚生労働科学研究費エイズ対策研究事業による報告によると、MACのIRIS症例60例の病型は、播種型・リンパ節炎型・肺感染型がほぼ同数であり、消化管型がわずかに見られている(海外では本邦より消化管型が多い)3)。またその他の病型としては膝関節や脊椎、前立腺、皮膚軟部組織感染や、MAC菌血症となり自然に治癒した症例の報告もある5)。
上記の本邦のデータでは、ART開始からIRIS発症までの時間は、MACのIRISのうち70%の症例が30日以内、88%の症例が90日以内であった3)。但しART開始後数日で発症したケースもあれば、脊椎炎として発症した症例ではART開始後数年後に発症した報告もある5)。
MACのIRISに対する明確な治療方針は決定されていないが、
①抗酸菌そのものに対する抗菌薬予防(azithromycin)、及びAIDS診断時にMAC感染症を発症している場合はART開始のタイミングの検討
②IRIS発症時の抗菌薬治療(clarithromycin+ethambutol+ rifampicin or rifabutin)、
③NSAIDsやステロイドなどの抗炎症薬の使用、
④ARTの中断の検討
が主たる治療の軸となる。但しいずれの予防・治療に関しても明確なエビデンスは無い。抗菌薬の投与期間やステロイドのregimenも決まっておらず、患者毎の症状に対する主治医の判断に委ねられる。一つの傾向として、本邦ではARTが中断される傾向が強いが、過去の海外の研究ではARTの中断が決断された例は非常に少ない(日本のNTMの症例55例中、ステロイド使用が9例、ART中断は13例であり3)、ステロイドを使用する前にARTが中断されていた症例が少なからず存在すると考えられる。海外では64例中3例のみでARTを中断されている4))。ARTの中断は薬剤耐性化の懸念や、免疫機能の悪化による新たな日和見感染症の合併のリスクにつながるため、非常に慎重な判断を要する。AIDS診断時にMAC感染症が判明し抗MAC治療が開始となった場合のART開始のタイミングに関しては、本邦ではMAC治療開始2~4週で開始する場合が多い3)。CDCのHIV日和見感染予防ガイドラインではエビデンスレベルはCIIIながら治療開始2週間後経過するまではART開始を待つことが推奨されている8)。
ステロイドの投与方法も決まったものはないが、プレドニゾロン1mg/kg/日(最大投与量60mg~80mg)で開始して週から月単位で減量する方法などがある7)。本邦のデータではMACのIRISにおいて42%の症例でステロイド薬投与が必要であり、これは海外と比較して差は無かった3)。また治療への反応性に関しては、末梢リンパ節腫脹型は腹腔内リンパ節腫脹型よりもARTへの免疫学的反応が良く、また診断時と比較して(発症時に)十分にCD4値が上昇している症例では反応性が良かったという報告がある6)。
1)福井次矢、黒川清『ハリソン内科学(第3版)』、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2009 2)青木眞・監修、岩田健太郎・著『抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方』、中外医学社、2011 3)厚生労働科学研究費エイズ対策研究事業「日和見感染症の診断/治療およびそれを端緒とするHIV感染者の早期発見に関する研究」班『免疫再構築症候群 診察のポイントVer.3(改訂版)』 4)Lawn SD et al.: “Immune reconstitution disease associated with mycobacterial infections in HIV-infected individuals receiving antiretrovirals”, Lancet Infect Dis.2005 Jun;5(6):361-73. 5)Peter Phillips et al.: “Nontuberculous Mycobacterial Immune Reconstitution Syndrome in HIV-Infected Patients: Spectrum of Disease and Long-Term Follow-Up”, CID 2005: 41 6)J. Riddle Ⅳ et al.: “Mycobacterium avium complex immune reconstitution inflammatory syndrome: Long term outcomes”, Journal of Translational Medicine 2007, 5: 50
7)平成21年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班『抗HIV治療ガイドライン』、2010 8) Jonathan E. Kaplan et al.: “Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents”, CDC
・UpToDate:Immune reconstitution inflammatory syndrome, 2012
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