注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
肝硬変では、肝代謝低下による内因性糖質コルチコイドの血中への残存と血中濃度上昇が生じている。また、門脈圧上昇により側副血行路が形成され、腸管からの血流(門脈血流)が肝臓を経由しないため、肝内のクッパー細胞が門脈血中のオプソニン化を受けた粒子を貪食することが出来ない。さらに、低補体血症によるオプソニン活性の低下も生じており、肝硬変患者は免疫不全状態にあるため、合併症として敗血症と細菌性腹膜炎が起こりやすい。(1)その中で代表的なのものとして、ビブリオ・バルニフィカス感染が挙げられる。
ビブリオ・バルニフィカスは河口付近に生息しているグラム陰性菌で、菌が二枚貝などの魚介類を摂取することにより感染する。温かい水を好む性質があり、水温が20℃を超える夏から秋にかけて増殖する。(2)日本では1999~2003年の間に、創傷感染を含め、年間19~27例発生し、合計107例が確認されている。発生地域は熊本県が24例と最も多く福岡、佐賀、長崎を加えた北部九州地域で全体の50%以上を占め、山口から岡山にかけての瀬戸内海沿岸と東京、千葉の東京湾沿岸にも見られる。(3)
ビブリオ・バルニフィカスは2つの症候群と関連があり、1つは原発性の敗血症、もう1つは創傷感染である。中でも敗血症は肝硬変やヘモクロマトーシスの患者に最も発生しやすく、潜伏期間は平均16時間で、患者は倦怠感、悪寒、発熱、虚脱感を訴える。約3分の1の患者は低血圧を伴い、しばしば入院時に明らかとなる。また、大多数の症例で発症から36時間以内に皮膚病編が出現し、時には組織の壊死や脱落が起こることもある。ビブリオ・バルニフィカス感染が劇症化した場合、致死率は50%に及び、死因の多くは制御不能の敗血症である (4)
リスクが増加する要因として、以下の結果が報告されている。(2)
・アルコール性肝硬変(敗血症を起こした患者の31%~43%)
・肝硬変や慢性肝炎を含む肝障害(24~31%)
・肝硬変を伴わないアルコール中毒(12%~27%)
・重症のヘモクロマトーシス(12%)
・糖尿病、リウマチ、慢性腎不全などの慢性疾患(7~8%)
食事指導としては、肝臓障害をもつ当疾患に対するリスクの高い人は、夏季に生牡蠣や十分調理されていない魚および貝類を食べないようにする他に、以下の方法で調理したものを摂取するようにすることが推奨されている。(5)
殻付きの貝
・購入する際には、既に殻の開いているものではなく、殻の閉じたものを選ぶ。
・ゆでる際には、貝が開いてからも3〜5分間調理する
・蒸す際には、既に水が蒸気となってから貝を入れ、4〜9分間調理する。
剥き身の貝
・ゆでる際には、3分間以上ゆでるか、貝の端が巻くまで調理する。
・揚げる際には、華氏375度で少なくとも3分間調理する
・じか火であぶる際には、火から3インチ離したところで3分間調理する。
・焼く際には華氏450度で10分間調理する。
参考
1 Up To Date:Secondary immune deficiency due to miscellaneous causes
2 Up To Date: Vibrio vulnificus infections
3 厚生労働省:ビブリオ・バルニフィカスに関するQ&A
4 ハリソン内科学第三版
5 U.S.Food and Drug Administration :How to Generate Awareness of Vibrio vulnificus in Raw Oysters within the Hispanic Community
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。