うまくいっていないことを検証するのって医者はあまりやらない。大切なのだけど。
結核の治療中に患者さんが悪化したときに何を考えるか?
結核治療中の患者さんの悪化の原因は、結核に関係するもの(①, ②)と関係しないもの(③, ④)の2つに大別できる。
① 治療の失敗 (treatment failure)
結核の治療の原則は多剤併用と規則正しい服薬と十分な投薬量・期間の3つである。これが遵守されない場合は、治療は失敗することが多い。
治療効果の判定は、塗沫でみとめる菌量の減少や培養の陰性化をもってなされる(通常、治療開始後2ヶ月で培養は陰性化すべきである。ただし、抗酸菌の減少を定量的に評価することは注意が必要である)。治療の失敗とは、培養陽性が続くまたは再発のことをいい、代表的な原因としては、不適切な服薬、耐性菌の存在、吸収などの薬物動態上の問題、検査室での問題(塗沫検査での見落としや感受性試験の間違い)などが考えられる。
② 初期悪化 (paradoxical reaction)
初期悪化は治療の経過で見られる一時的な臨床像の悪化(X線写真での陰影拡大、胸水、リンパ節腫脹、発熱など)で、特にHIVとTbの共感染症例に多く見られる(免疫再構築症候群と同様の概念と考えられている)。HIV陽性症例では28%に、陰性症例では10%に見られたとの報告がある。したがって、直ちに失敗や耐性菌の出現、薬剤熱(副作用)と判断しないことが大切である。
③ 基礎疾患の悪化
活動性結核のリスクファクターを表1に示す。
このうち、入院期間中に悪化する可能性があるものとしては、HIV(→日和見感染)、珪肺(→呼吸不全)、慢性腎不全(→心不全・尿毒症)、透析(→動脈硬化による急性心筋梗塞AMIや脳卒中stroke)、免疫抑制状態(→日和見感染)、移植後(→日和見感染)が考えられる。
④ 新たな疾患の出現
入院中に起こりうる患者さんの状態を悪化させるイベントとして、以下のようなものが考えられる。
(a)心血管系: ①深部静脈血栓症DVT→肺塞栓PE
②心房細動Af→AMIやstrokeなど
(b)炎症・感染: ①肺炎・ライン感染・尿路感染→敗血症
②アナフィラキシーなど
(c)内分泌: ①不適切な血糖コントロール→糖尿病性ケトアシドーシスなど
(d)医原性: ①薬剤の副作用→腎障害や肝障害
②外科的処置→出血など
(e)その他: ①精神的ストレス
②誤嚥→窒息
③転倒→骨折→脂肪塞栓や廃用症候群など
参考文献
・レジデントのための感染症診断マニュアル 第2版 2008 医学書院
・Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th Ed, 2011, McGraw-Hill Professional
・Breen R., et al., “Paradoxical reactions during tuberculosis treatment in patients with and without HIV co-infection” Thorax, 2004, 59:704-707
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