これはよくできたレポートだ。だいたい、学生のレポートは良くできているが、それにしても出色。こういうのが書けるようになったのだから、学生のレベルは上がってるんだと思う。
心不全と肺炎の鑑別について
肺炎や心不全の鑑別は、問診や身体所見を詳細に取ることで、陽性LRを上昇あるいは陰性LRを低下させ、診断をより確実なものに近づけることができる。
(1)問診
肺炎 |
心不全 |
感染徴候(発熱,咳,鼻汁,膿性痰,悪寒戦慄etc),基礎疾患(嚥下障害,COPD etc),症状(呼吸困難感,胸痛etc),易感染性(免疫不全,ステロイド,免疫抑制薬etc),シック・コンタクト,環境(集団生活,社会,住居etc) |
基礎疾患(弁膜症,心筋症,高血圧,不整脈etc), 症状(発作性夜間呼吸困難感,泡沫状痰etc)など |
ただし、呼吸困難感・発熱・咳のように、両者は似たような症状を来すことが多いため、問診だけで鑑別を行うことは難しい。
(2)身体所見・検査所見
肺炎…Heckerlingの診断スコア1)(胸部X線浸潤影が認められる時に、①体温,②心拍数,③クラックル,④呼吸音,⑤喘息の既往、の五項目に各1点を加える。4〜5点は肺炎を強く肯定{LR=8.2}。0〜1点は肺炎を否定する{LR=0.3}。)
心不全…S3 gallop{感度:12〜32%、特異度:95〜96%、陽性LR:5.7、陰性LR:NS}、異常なvalsalva反応{感度:95%、特異度:88%、陽性LR:7.6、陰性LR:0.1}など。2)
これらに比べて低い尤度比を持つクラックル・浮腫・頸静脈怒張なども、心不全の元となる基礎疾患を持つ患者では、より正確なうっ血性心不全の徴候となる。例えば、心不全の患者にクラックルが適用された場合、肺動脈楔入圧≧20mmHgとなる感度は19〜64%、特異度は82〜94%、陽性LRは3.4となる。2) このように、所見の合成により診断精度は上昇するが、これらの所見は呼吸困難をきたす他の疾患でも見られるため、所見のみでは精度は不十分である。
病歴や身体所見に検査所見を加えることで、診断精度はさらに上昇する。例えば、BNPは心不全のマーカーとして有用である。BNPは心室の心筋細胞から分泌され、利尿や血管平滑筋拡張により容量負荷や心筋細胞の伸展を和らげる働きを持つ。正常値は100 pg/mL未満であり、心不全の診断では、100pg/mLをカットオフ値とすると陽性的中率は83.4%、50pg/mL未満の陰性的中率は96%である。3)
3)画像所見
画像診断はしばしば肺炎の診断に使われている。肺炎のX線所見には、一般に濃厚で境界明瞭な不透過陰影・浸潤陰影・air bronchogramが見られる。心不全では肺静脈圧の亢進があるため上肺野の血管径が増大し、進行すると間質性肺水腫となり、肺野の線状陰影・網状陰影・Kerley’s B lineが出現する。4) Kerley’s B lineは心不全の特異度が95%、感度が97%となり感染症との鑑別に比較的有用である。5) しかし、読影は行う人間の能力や経験によって左右されるので、X線のみで診断を行うことは難しい場合がある。
【まとめ】
心不全と肺炎は、胸部X線で似たような所見を示すことがあり、合併することも多いため、画像診断のみで区別をすることは難しい。したがって、問診や複数の身体所見・検査所見を組み合わせて総合的に判断することが重要である。
【参考文献】
1) Heckerling PS, Tape TG, Wigton RS, et al: Clinical prediction rule for pulmonary infiltrates. Annals of Internal Medicine 113: 664–670, 1990.
2) マクギーの身体診察, 訳:柴田寿彦,診断と治療社 (2009/12), p242-246, p353-360
3) Wallach's Interpretation of Diagnostic Tests 9th edition, Mary A.Williamson MT(ASCP) PhD, L.Michael Snyder, Lippincott Williams & Wilkins (2011/5/), p77-79
4) 標準放射線医学 第6版, 監修:高島力 佐々木康人, 医学書院(2001/10), p204-257
5) Daniel A. Lichtenstein, MD, FCCP and Gilbert A. Mezière, MD, Relevance of Lung Ultrasound in the Diagnosis of Acute Respiratory Failure* The BLUE Protocol. CHEST 2008;134;117-125;Prepublished online April 10,2008;
6)レジデントのための感染症マニュアル 第2版, 青木眞, 医学書院, p482
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