接合菌とアスペルギルスを病理学的に区別するのは難しい(ことがある)。病理所見はDr's Dr's dxだけど、臨床的な文脈を欠くとそれでも誤診につながってしまう。。。という話。よくできました。
ムコール症について
ムコール症mucormycosisは比較的まれであるが、最も悪性かつ致死的な侵襲性真菌症の1つである。
ムコール症のリスク因子 |
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糖尿病 (特にケトアシドーシス併発時) |
Deferoxamineの使用 |
AIDS |
グルココルチコイドの使用 |
血液悪性腫瘍 |
栄養不良 |
造血幹細胞移植 |
経静脈的薬物投与 |
臓器移植 |
外傷 |
基本的な病態は、①呼吸器系などに菌が沈着し、②血管や周辺組織へ浸潤し、③梗塞・壊死を引き起こす、となっている。起因菌は、自然界に広く分布しているケカビ目真菌であり、我々も日常的に吸入していると考えられる。健常人では菌糸発芽が肺胞マクロファージなどによって阻害されるため、ムコール症は引き起こされない。しかし糖尿病や免疫不全、鉄過剰症候群におけるdeferoxamineの使用といった素因を持つ患者では、ムコール症を発症しうることを念頭に置く必要がある。
【症状】
臨床症状は、菌の生着部位により様々な型を取る。鼻脳型、肺型が典型的であり、他に消化管型、皮膚型、播種型などがある。
<鼻脳型>主に糖尿病患者が示す型であり、菌が副鼻腔に生着することで起こる。初発症状として急性副鼻腔炎の像を示すことが多い。感染は急速に近接部位に進展し、進展する部位に応じて様々な症状をきたす。具体的には鼻粘膜や口蓋における黒色の痂皮(典型的症状とされる)、眼窩肥厚や視力低下、海面静脈洞血栓症や顔面神経・三叉神経麻痺、脳膿瘍形成などがある。
<肺型>好中球減少やdeferoxamine使用患者に多く、糖尿病患者ではこの型は少ない。組織破壊性の肺炎を起こし、高熱など重篤な臨床症状をきたしうる。侵襲性肺アスペルギルス症と類似する点が多い。
【検査・診断】
ムコール症は致死率が高い疾患であるため(鼻脳型で25~62%、肺型で50~70%)、迅速な診断と治療開始が要求される。上記の素因を持つ患者において、ムコール症を疑わせるような臨床所見が得られた場合は、生検標本の顕微鏡的観察・培養を行い診断するのが原則である。診断の際は他の真菌症(特にアスペルギルス症)を鑑別することが重要である。顕微鏡的観察においては、菌糸に隔壁を認めない点などがアスペルギルスとの鑑別に有用である。ただし、培養が陰性となる場合もしばしば見られることに留意する。
肺型の診断は、喀痰やBAL検体における菌糸の確認のほか、CT所見(10個を上回る多発性結節やreversed halo signなどはムコール症に特徴的)などを総合して行う。
なお、本症では血液培養は常に陰性となる。また、有効な抗原測定法は存在しない。診断精度向上のため、PCRを用いた診断法などが試みられているが、未だ実用化には至っていない。
【治療】
治療の原則は①素因(基礎疾患)の改善、②外科的処置:デブリドマン、③抗真菌薬であり、これらを並行して行う。抗真菌薬はamphotericin Bを用いる。fluconazoleやvoriconazoleは無効であるため、アスペルギルスなどの他の真菌症との鑑別が重要である。日本では使用されないが、海外ではposaconazoleも有効とされており、臨床研究が進められている。
【参考文献】
ハリソン内科学 第3版 メディカル・サイエンス・インターナショナル p1323-1325
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th edition p3257-3266
Uptodate “Mucormycosis(zygomycosis)” Gary M Cox
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