血液培養陰性の感染性心内膜炎について
-はじめに-
IEの診断において血液培養は最重要検査とされており、Duke診断基準においても2つの大項目のうち1つを占めている。ただしこの診断基準では大項目を全て満たす必要はなく、大項目1つ+小項目3つ、あるいは小項目5つを満たす場合においてもIEと診断される。すなわち、血培陰性のIEというものが存在する。具体的には、少なくとも3セットの血培を、7日間培養しても原因菌の同定ができないIEと定義されている。
-疫学-
血液培養が適切に施行された場合でも、IE患者の2~7%でculture-negativeであるとされている。診断時に既に抗菌薬投与が行われていた患者では陰性の頻度はより高くなる。
culture-negativeとなる主な原因としては、以下の3つが挙げられる。
①診断前に抗菌薬が投与されている ;最多原因とされる。
②真菌やFastidiousな病原体の感染による ;抗菌薬の使用がない場合は、培養困難である真菌や人畜共通感染症の病原体が最多原因とされる。具体的にはC.burnetiiやBartonella spp.が多いが、地域差が大きい。
③不適切な培養の手順
なお、HACEK (Haemophilus aphrophilus, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, Kingella kingae) といわれる口腔内・上咽頭のグラム陰性桿菌は、今日では5日間以上の培養で容易に分離可能で、培養期間の延長が診断の助けとなる。また、血液や摘出弁を用いた血清学的検査、PCRが病原体の検索の一助となる。
各国で行われた研究によって、発展途上諸国で特にculture-negative IEの頻度が高いことがわかっているが、上記の3つの側面を鑑みると、①医師の処方なしでの抗菌薬服用が多いこと、②fastidiousな原因微生物が多いこと、③培養技術が確立していないこと、などがその背景として考えられる。
-治療-
原因微生物が決定していないため、empirical(経験的)治療という形になる。
まず、抗菌薬の使用によりculture-negativeとなった場合は、①急性、②亜急性、③人工弁置換術後の3パターンでempiricalな処方が決まっている。
①自然弁・急性 ;特に黄色ブドウ球菌をカバー
②自然弁・亜急性 ;黄色ブドウ球菌、緑色連鎖球菌、腸球菌、HACEK群をカバー
③人工弁置換術後1年以内 ;MRSAを含むブドウ球菌、GNRをカバー
人工弁置換術後1年以上 ;MSSA、緑色連鎖球菌、腸球菌をカバー
一方、原因微生物の性質により培養困難な場合は、カテーテル挿入や家畜との接触、HIV感染といった臨床的・疫学的情報に基づいて原因微生物を想定し、その微生物に合わせた処方を選択する。
-おわりに-
個々の症例で原因微生物を可能な限り鑑別して抗菌薬使用の目的を意識することが重要であり、そのためには今回学んだような最新の疫学や治療指針を把握しておくことが不可欠であると考える。
<参考文献>
● Raoult D, Casalta JP, Richet H, et al. Contribution of systematic serological testing in diagnosis of infective endocarditis.J Clin Microbiol 2005;43:5238
● Houpikian P, Raoult D. Blood culture-negative endocarditis in a reference center:etiologic diagnosis of 348 cases.Medicine (Baltimore) 2005;84:162
● Petti CA, Bhally HS, Weinstein MP, et al. Utility of extended blood culture incubation for isolation of Haemophilus, Actinobacillus, Cardiobacterium, Eikenella, and Kingella organisms: a retrospective multicenter evaluation. J Clin Microbiol 2006; 44:257.
● 青木眞;レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版,pp.618-620,p.623,2008
● ハリソン内科学 第3版,p.833,2009
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