5年生のBSL試験を行った。みなさん、よくがんばりました。採点も疲れたよ(こういうのはすぐやらないと情熱が劣化するのでがんばりました)。
感染症内科の試験問題は以下の通り。時間は30分。読者も挑戦して欲しい。
A大学病院ではこの度入院患者すべてにルーチンでHIV検査を行うプロトコルを採用することにした。このプランをどう考えるべきか。あらゆる領域や可能性を考慮に入れ、あなたの意見をまとめてください。もちろん、これは試験なので単なる感想文ではだめです。どういう書き方をするのが妥当なのかも十分考えて記述してください。
難しいだろうか?神戸大医学部5年生はみんながんばって自分なりの回答を模索しようとしていたと思う。
この問題で考えて欲しかったのは以下の点。
1.あるポリシーを導入するには、いろいろな観点を重層的に理解しないといけない。一意的に「よい」「悪い」と分断することは極めて困難である。
2.何かを導入する際の、「プレイヤー」の数を勘定すること。多くの病院では外科医の都合しか考えない。検査される患者のことも考慮しなければならない(これはほとんどの学生がきちんと記述していた。君たちの見解は多くの医者よりもよくできているよ)。もちろん、プレイヤーは患者、医者だけではない。たとえば、検査技師の手間ひまはどうか?
3.利益と不利益の天秤掛けをしなければならない。これもたいていの答案ではうまくできていた。利益、不利益は医学的なもの、金銭的なもの、社会心理学的なものなど多岐にわたる。
4.検査には感度・特異度があり、検査前確率が低い(スクリーニング)を行った場合の偽陽性の扱い方を検討しなければならない。この点を指摘した答案は少数派だったが、できたひとはできていた。
5.「そうでない条件」にまで想像力をストレッチすること。想像力のストレッチは根源的な思考に極めて重要である。例えば、HIV検査をして検査結果を伝えると患者がパニックになるのでよくない、という回答があったが、では「検査結果を伝えずにパニックを回避したら、その患者に何が起きるのか?」といったことは想像力を働かせて考えなければいけない。一面的なシチュエーションだけを検討対象にするとたいてい間違える。これも多くの現場の医師がつまづいてしまうキャビアである。ついでに言うと、「する」も「しない」も立派なアクションで、目の前の患者に大きく影響する。現状維持、先送りも立派なデシジョンメイキングなので、「何もしないで現状維持」は責任を免れる言い訳にはできない。
他にもいろいろあったけれど、主立ったところはこんなところだ。ぺらぺらの薄っぺらい議論ではなく、重層的な議論(あるいは思考)ができるというのが、重厚であいまいな医療現場で生きていく上では大切な資質である。それに気づいてくれればいいんです。
ついでに言うと、現在アメリカでは入院患者全てにHIV検査を行うことが推奨されている。これを日本に導入すべきか?あるいはどのような条件下であればこのようなポリシーが正当化できるか?こういったことも考えてみるとよい。そうすれば、アメリカで作った診療ガイドラインをどうやって活用するか、といったよく議論される(がシャローな国粋主義者とやはりシャローなグローバル・スタンダーディストの信念対立に終わってしまうことが多い)問題にも比較的容易に回答がでてくるはずだ。
最近のコメント