多剤耐性アシネトバクターの問題が報道されている。ウェブとテレビをちょろっと見たが意味が分からない。被害の価値も、意味もよく分からない。死亡者が感染症に関連しているかも分からないのに被害が甚大とする報道も報道だ。そもそも、「感染」の定義すら書いていない。僕が見ていてわけわかんないんだから、ほとんどの人は何が起こったのか理解できないのではないか。たぶん、社説を書いている当人も何が問題なのかは把握していないと思う。この時点で、帝京大学病院を擁護も非難もできない。すべきでもない。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100903-OYT1T01201.htm?from=nwla
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100905k0000m070091000c.html
メディアは保健所への報告が遅すぎる、としているが、そもそもアシネトバクターは感染症法における届け出義務のある感染症ではない。厚労省も平成21年の通知があるが(こんなのすぐには見つけられないけど)、保健所に届けよとは書いていない。衛生主管部(局) 院内感染対策主管課 に厚労省に通知せよとは書いているが。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/index.html
僕はこないだデング熱の報告をしたが、あれ、報告しても保健所ってできること、やるべきことってほとんどないのだ。感染症の届け出が形骸化していて、保健所も対応のスキルやノウハウもない。院内感染に関する限り、ICNのほうが絶対にエキスパティースは高い。厚労省の通知なんて教科書からひっぱってきたような「当たり前のこと」しか書いていない。
「対策としては、緑膿菌と同様に、日常的な医療環境の衛生管理の実施と標準予防策の励行とともに、本菌が尿や喀痰などから検出された患者における接触感染予防策の徹底、さらに、病院内の湿潤箇所や、特に人工呼吸器の衛生管理と消毒などに留意する必要がある。点滴などの混合は、可能な限り無菌的な環境と操作により行ない、混合後、直ちに使用する。」
保健所に早く相談すれば何かいいことがある、という発想そのものがナイーブである。
多剤耐性アシネトバクターはアメリカで10年も前から問題になっていて、いつかはどこかでやってくる問題なのは分かっていた。僕がアメリカにいたときは、この菌のために病棟を閉鎖したこともある。
治療薬のコリスチン・ポリミキシンBの不備も分かっていた。だから、神戸大感染症内科でも未承認薬のポリミキシンBを海外から購入して備蓄している。そういうことは何年も前からの問題なのに新聞はそのことを今まで問題視すらしてこなかったのである。「街場のメディア論」ではないが、今までの対応不手際をほったらかしておいて、今更驚いたふりをされても困る。
耐性菌対策はアシネトバクターだからこうで、緑膿菌だからああで、NDM−1だからうんとかいうものではない。病院の総合力の問題である。各菌を別々に対応すること自体、日本の耐性菌対策が微生物に対する各論的アプローチしかできていないことを意味している。
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