神戸大学指導医講習会を行いました。今回は、大改革を行っています。
もともと、指導医講習会については大いに不満がありました。どこに問題の根幹があるのだろう、といろいろ考えていたのですが、いろいろな方とお話をしていて、何となく分かってきました。
うさんくさい。
これに尽きると思います。
・成人教育と言っておきながら、思いっきり上から目線で受講者を子ども扱い
・ワークショップに答えはない、といっておきながら既定路線で答えを提供(強要)
・観念的な行動科学主義
・measurableでないものはだめ、と頭ごなしに否定
・スキルラボに何万円かけて、、、みたいなほとんどの指導医には意味不明な仕事(カリキュラム)を強要
・恣意的である分類がいつの間にか所与のデフォルトになっている不気味さ
・外科系指導医のありかたに対してほとんど配慮なし(プラナーが完全に内科系教育しか考慮に入れていない)
・ポジティブフィードバックが大事といった矢先にできたプロダクトをけちょんけちょんにけなすタスク
医学教育の研究者が机の上で考えた観念的なプログラムで、感想が
・つらかった
・しんどかった
・二度と出たくない
というので、参加者も
「いや、あれは大変だ、と脅かされて嫌々来ました」
なんて言われる始末です。もううんざりでした。
楽しく研修医を教えましょう、と言っておいて、指導医講習会がつまらない、というのはどういうダブルスタンダードか。
というわけで、今回の講習会はなんとGIO/SBOみたいな専門用語は一度も出ず、KJ法も使わず(禁止はしなかったが、どのタスクも使わなかったのでした)、、、三役も作らず(自分たちで勝手に作りました。相手は「大人」ですからね)。タスクの監視もなく。
めざすはアビーロードのような流れる展開、気がつけば終わっていた、という躍動感。まあ、どこまでそれが達成できたかは疑問ですが。
お題は
「何のために研修医を教えるのか?」
「何を教えるのか?」
「どうやって教えるのか?」
「どんな医師に育てたいのか?」
「プロの医者ってどんな感じ?」
「minimum requirementは何か?」
といった実践的なことばかりを取り上げました。参加者の皆さんが、楽しんで、「明日から研修医教えるぞ」という気分になっていただければ、幸いです。
最後の総合討論では、「神戸大学病院はここがだめ」みたいな厳しい意見が相次ぎました。謹んで拝聴し、大学病院でも良い研修病院になれるよう、挑戦を続けることを誓ったのでした。いつかな、10年後くらいか、、、、?
総合討論では司会をしたのですが、あえて発言にばらつきが出るのを妨げませんでした。しばしば、ワークショップでは発言が平等にされることを強調されますが、僕はこれはおかしいと思う。
通常のコミュニケーションでは、各人でしゃべる量に多寡があるのが「自然」です。たくさんしゃべるtalkativeな人もいれば、うんうんとうなずいて他人の言うことに耳を傾けるのが快適な人もいるでしょう。それが、自然な会話。「みんな平等」という極端な平等思想は霞ヶ関とか教育学の専門家のなかの「信念」や「怨念」がオーラとなってよく出てきますが、むりやり作った平等さくらい気持ち悪いものはない。
もちろん、逸脱するような極端な例は問題ですがたいていの場合は、他人を遮ってしゃべる倒すような人はあまりいない。いまどき、そんな非常識なことをするのは大学教授か元大学教授くらいなものだ。相手は大人なんだから信じてあげるべき。成人教育、って口で言っているだけではダメだ。
メンタル・ストレングスをいかに涵養するか、が長い疑問で多くの識者の方に質問していたのですが、あまり良い答えは出てこない。
「メンタルケアは大事」
「研修医が萎縮しないよう」
こういう気遣いは大事ですが、指導医がいくら気遣って研修医を壊れ物を扱うように大事に育てても、社会は厳しい。患者はどなるし、ナースは叱る。出血する患者もいる。そしていつか必ず患者は死ぬ。
これらのことは全てショッキングな出来事。人を萎縮させる出来事。逆に、患者が死んでも平気の平左でいるようでは、それはそれで医師としての適正を欠いている。
患者が死んだらショックに思い、それでも立ち上がる。
優しさと強さが医師には必要です。だから、「萎縮事項」を回避するだけではなく、その「強さ」を育てることが大事になるのです。オリンピックの本番でもびびらず滑りきるためには、強くなくてはいけないはず。それを「天然の強さ」だけに頼るわけにも行かないはず。
そうしたら、I病院のI先生に
「認知行動療法だ」
と教えてもらいました。ようやく納得いく回答を得ました。他にもあったら教えてください。
もうひとつ、初期研修医のminimum requirement、という命題もありました。すくなくとも、厚労省の到達目標は、ぜんぜんぴんとこない。
これについてもすぐ答えは出なかったのですが、今日ふと気がつきました。
初期研修医について、岩田が思うminimum requirement
1. 自分のできないことが何か、力の及ばないところはどこか、理解している。
2. 自分ができないことをどう対応したらよいか、誰に相談すればよいか知っている。
3. 世界観、価値観の異なる「他者」とコミュニケーションが取れる
これだけ。挿管ができるか、中心静脈ラインが入れられるか、心マができるか、結膜炎を経験しているか、EBMが実践できるか、英語の論文が読めるか、プライマリ・ケアができるか(プライマリ・ケアって何?)、こういった事項は全て十分条件だが、ユニバーサルにすべての医師に必要か?というと多分違う。「患者の気持ちが分かる」みたいな分かったようで分からない壮大な目標を立てるのも違う。研究志望者含め、「あらゆるキャリアパス」を貫き、「全ての臨床医」が100%絶対に習得していなければならない事項は(もちろん、できてもよいのだけれど)、実はほとんどない。と気がついたのでした。
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