The Holidayという映画があります。なんということのないハリウッドのラブコメですが、なんということのないハリウッドのラブコメがたいていそうであるように、なかなかに味わい深い仕掛けも施してあります。
主人公の友人に、アーサーという80代の老紳士がいます。実は彼は元ハリウッドの大物脚本家で、あの「カサブランカ」の名台詞、Here is looking at you, kid.のkidをつけたのも彼だ、というのが映画の設定です。アメリカ人は映画が大好きで、古典的な名画はたいてい見ていますから古典中の古典「カサブランカ」はよく引用されます。もちろん、ボギーの大ファンの僕はそれを大いに喜んで観ます。
で、そのアーサーが過去の偉大な業績を称えられて、記念賞を授与されるのでした。授賞式でスピーチをするまでの紆余曲折はなかなかにおもしろいのだけれど、まあそれは皆さん各自で観てください。ただ、長い長い地道な努力を皆で称える瞬間とは、とても感動的なのだと思ったのでした。
この場面をふと思い出したのは、昨日IDATENケースカンファレンスで青木眞先生へのTeacher's Awardの授与式を見たからです。映画の記憶が、ちょっとかぶってしまったのです。いっぱいの聴衆、すばらしいティアニー先生のスピーチ、そして、いつもより若干緊張されているように見えた青木先生の記念講演、いずれも大変感動的でした。
もちろん、青木先生にしても昨年の受賞者である喜舎場先生にせよ、賞の栄誉や記念の楯が欲しくてこれまでお仕事をなさってきたのではないでしょう。けれども、日本では日の目を見てこなかった臨床感染症分野の、これまた日の目を見てこなかった教育領域での長い長い功績が、あのとき集まったたくさんの若いドクターや学生というプロダクツになっています。その表現形の一つとしてのTeacher's Awardなのだと思います。そのような重厚な業績の重みや厚みが背後に透けて見えたため、とても感動的な会になったのだと僕は思いました。
さてと、あるべき臨床感染症からも臨床教育からも一番遠い位置にある大学病院で仕事をするのはとても大変なことです。でも、青木先生たちのこれまでの長い長いご苦労を垣間見ると、僕なんてまだまだ楽な仕事をしているなあ、と思います。すでに、まっとうな感染症診療への流れ、道筋は作られています。先達がすでに方向性を示しているのです。今、抵抗勢力と見られている逆流もいずれは消えてなくなることは分かっています。後は時間の問題で、結末はハッピーエンドになる連続ドラマのアップダウンを僕らは経験しているに過ぎないのです。大学病院は夜明け前ですが、(いつかは)夜明けのくることは誰の目にも明らかなのです。
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