この患者さん、易感染性なのでしばらく抗生剤残しておきたいんですが。
この患者さん、易感染性なので予防的に抗生剤使いたいんですが
このようなコメントをよく受けます、最近。確かに、その患者さんは、感染症のリスクが高まっています。
しかし、実は易感染性の患者というのは全然特別な存在ではありません。
外傷、熱傷患者は皮膚という強力な免疫機構に破綻をきたしており、易感染です。
免疫抑制剤を飲んでいる膠原病、炎症性腸疾患、自己免疫疾患、移植患者は易感染です。
悪性疾患があり、化学療法や放射線治療を受けている患者は易感染です。
術後の患者は易感染です。
低体温の患者は易感染です。
新生児、低出生体重児は易感染です。
脳外科手術後は(中枢神経の侵襲によるらしいですが)易感染です。
抗菌薬使用(!)は易感染に関係しています。例えば、真菌感染が増えます。
HIV/AIDSは易感染をもたらします。
透析患者は易感染です。そもそも腎疾患の存在そのものが易感染をもたらします。
慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、慢性肝疾患があると、易感染です。
異物の留置は易感染をもたらします
急性腹症、急性膵炎は易感染をもたらします。
「高齢者」は易感染です。
などなどなど。普段は自分の領域の患者しか見ていませんが、私たちは、病棟外来、ありとあらゆる種類の患者さんの感染症をみてきました。多くの医師は「うちの患者は特別で、、、」とおっしゃいますが、私の目から見ると、
「患者はほとんど全員易感染性。易感染性のない患者を捜す方が難しい」
と思います。
もうひとつ、易感染性というリスクは、抗菌薬の使用によってヘッジ出来ません。抗菌薬を使うと、その薬が効かない感染症のリスクがむくっと増えていくだけです。ステロイド使用者のST合剤のように限定的な使用方法は確立されていますが、易感染性というキーワードで思考停止に陥り、術後にだらだら抗菌薬を使用したり、「予防的に」抗菌薬を出し続けることはリスクをヘッジしたことになりません。そして、抗菌薬の長期使用は真菌感染などの怖いリスクを増やしているのです。物事の利害両面を、透徹した、鳥瞰図的な視点でもう一度見直してみる必要があります。
主治医の患者に対するコミットメントがなければ医療なんてやってられませんが、逆にそのコミットメントが判断を迷わせる皮肉も併存しています。フッサールチックに、自我と第三者的な視点を行ったり来たりしながら、三角方的に妥当な判断を模索するより他ないようです。その時大事なのは、「易感染」といったキャッチーなキーワードで思考停止に陥らないことです。エコ、温暖化、医療崩壊といったキーワードで思考停止に陥らないのと同じくらい、に。
こんな話を今日はとあるがんセンターでやろうと思っています。
最近のコメント