大多数の人が間違えるような問題は、どこかに欠陥があるものです。こういう問題は通常、不適切問題と判断されます。
微量採血器具が不適切に使用された、なんと日本で1万以上の医療機関で不適切に運用していた、という問題が話題になっています。そのくせ、実際に被害を受けた人は今のところゼロ、という不可解な問題です。
1万以上の医療機関で不適切、という事実に対する解釈はただ一つです。医療機関がだめだった、ではなく、情報提供の仕方がまずかった、と解釈すべきなのです。これは医療機関の問題ではなく、厚労省の問題です。
規則を破った医療機関も、「患者を血液経由の感染症で苦しめてやれ、ぐっふっふ」なんて悪意を持っていたわけでも、これを悪用して大もうけしようとしていたわけでもありません。どこぞの料亭や牛肉業者とは全然問題の根が異なっています。当時、厚労省は「通知」を出して微量採血器具の使い回しがよくない、というお達しを出したのですが、この伝え方があまりに稚拙だったというだけの話なのです。要は、口説き方が下手なのです(スレッガー調)。1万以上の医療機関が悪意もなくviolateしていたとしたら、これは明らかにメッセージの出し手の問題なのです。
それなのに、悪いのは現場の医療機関といわんばかりに、医療機関名を公表し、被害の確認をするなど偽善的態度にもほどがあります。第一、血液由来感染症に関しては、厚労省は致命的なほったらかしをやっています。それは、B型肝炎です。WHOがuniversal vaccinationを勧告しているB型肝炎ですが、「日常生活での感染例はない」とうそぶいて無視していました(今も無視しています)。
http://www.asunet.ne.jp/~saga/95-26.html
私(岩田)個人の外来だけでも、ずいぶんたくさんのセックス由来のB型肝炎感染患者をみています。このような実被害のある本質的な問題はほったらかしなのに、ほとんど重箱の隅突きといえる微量採血器具問題で現場をいじめるえげつなさには、かなりの違和感と憤りを感じます。
微量採血器具はディスポにするのがベターでしょう。では、使い回しは「不適切」か?それは、あくまで相対的な問題です。少なくとも微量採血器具をディスポにする手間よりは、HBVワクチンをきちんと打った方が得することが多いと思います。麻疹ワクチンをきっちり打った方が得することが多いと思います。医療はゼロサムではなく、相対的な損得勘定の世界観なのです。
って、そんな話をしても、「B型肝炎?それは俺の管轄外よ、ぐっふっふ」と冷笑されるのがオチかもしれませんが。昨日もある案件で厚労省の方とお話ししましたが、そのうち一人はあからさまに「私には関係ないメッセージ」をばしばしオーラで出していて、こちらを困らせました。確かに彼にとっては2年後には関係ない案件なのでしょうが。感染症の業界では、このような賽の河原のむなしい仕事が続きますが、それでもあるべき姿の模索は続き、挑戦は繰り返されます。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。