実際に、私がCRPが役に立ったなあ、と思ったケースです。
80代の女性。肺炎か何かで入院しました。寝たきりで退院先を探していたいのです。微熱が続いていましたが、特にパッとしないので経過観察です。研修医のプレゼンを聞いても、特に変わりません、という話でした。
一般に、研修医が「特に変わりありません」なんて言い出したときは要注意だったりします。どれどれ、と検査データを見ると、CRP値が高い。まあ、それはいい。よく、大学病院の先生はCRPが高いと親の不幸にでもあったかのように驚愕動転されますが、ほったらかしておいてもいいのです。
問題は、CRPのトレンドでした。前の日のCRPは今日より低く、一昨日はさらに低い。グラフにしてみると、なんとここ1週間毎日上がり続けている。
おかしい。
CRPそのものはnon-specificなマーカーです。これが高いことそのものが何かの疾患を意味しているわけではない(示唆してはいても)のです。しかし、毎日上がり続けているのは問題です。
すごくシンプルにした確率論でいうと、CRPは上がるか下がるかそのまんまか、の3種類しかありません。これもすごくシンプルに乱暴に考え、それぞれが起きる可能性を33%と決めつけておきましょう。CRPが翌日上がっている確率は3割程度とするのです。では、その翌日も上がり続ける可能性は?これは、0.3x0.3で、10%程度になります(ついてきていますか?)。その翌日も上がり続ける可能性は3%弱、その次の日は、1%以下になります。
偶然にしては出来すぎています。何かがおかしい、と思うのがまっとうな臨床的な考え方です。臨床家は確率論の世界に生きており、原則として「偶然を信じません」。あの素敵な彼女との出会いも全部必然だあっ!と間抜けなことを考えるのが臨床家です(それは単なる偶然です)。
おかしいってんで患者さんを診察に行きました。やっぱり。左下腿が腫れて固くなっていたのです。深部静脈血栓を作っていたのですね。
CRPに限らず、臨床の世界ではトレンドが大事です。検査も、初診時のスポットで見ていてはいけません。クレアチニンが1.5という数字ではこれが重要かどうかは分かりません。しかし、前日は1.1で、その前の日は0.8でした、と聞けば、何かがまずい、マネジメントの変更を強いられるのです(水を増やすとか、利尿薬を切るとか、アミノグリコシドを切るとか、です)。
ポイント
・検査はトレンドが大事
・CRPが「上昇し続ける」場合は、単に高値なのとは違い、心配が必要。
もちろん、CRPが上がり続けたからといって、すぐに「抗菌薬」という意味ではありません。件のおばあちゃんも感染症以外がCRP上昇の原因でした。CRP上昇ーー>抗菌薬は大脳を使わない脊髄反射的思考です(まあ、思考ですらないのですが)。CRP上昇ーーー>何故?というのがせっかく良いおつむを両親にもらった医師の最低限のつとめと思うべきです。
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