ステロイドが効く感染症は少ない。むやみに熱にステロイドを用いるのは、むやみに熱に抗菌薬を用いるのと同じくらい良くない、というのが岩田の意見。ステロイドが必要な感染症は数えるほどしかありません、という主張でした。これは、
medicina(ISSN:00257699)44巻4号(2007.04)P.760-763
http://ej.islib.jp/ejournal/1402102689.html
にまとめています。
今回、新たに分析した論文が出たので読んでみました。著者のMcGeeは、「あの」McGeeでしょうか。
Use of corticosteroids in treating infectious diseases. read May 28, 2008
McGee S and Hirschmann J
Arch Intern Med. 2008;168:1034-46
・ステロイドの臨床使用は1949年、Henchらが関節リウマチに使用した「E物質」に遡る。これがコルチゾン。後に、この功績によりHenchらはノーベル賞を受賞している。
・腸チフス、結核性髄膜炎、そして重症敗血症にステロイドが効く、という治験も多かった。1960年代には多くのウイルス性、細菌性感染症にステロイドを用いた。しかしながら、免疫抑制作用のあるステロイドは諸刃の剣で、医師はこれを避けることが多い。
・このスタディーはMEDLINEで英語論文のみで検索した。190の治験を見つけ、歴史的コントロールやランダム化されていない、オープンラベルなものを除外した。ステロイドの局所薬の使用も除外された。
・結果、ほとんどのスタディーでは抗微生物薬併用されていた。
・全てのスタディーでは免疫抑制者は除外されていた(!)が、HIV患者を入れたものはあった。
帯状疱疹
・5つのランダム化スタディー、780人の成人を用いている。3つのスタディーではアシクロビルを併用。
・疼痛、鎮痛剤の減少、睡眠、創部の治癒において3つのスタディーで有効性が認められている。特に発症初期には有効。
・2つのスタディーはアウトカムに陰性。
・postherpetic neuralgiaの予防には無効。
プレドニゾンにして50mg程度(初期投与、以下同じ)、20日程度が使用された(平均、以下同様)
伝染性単核球症
・6つのスタディー、268人の患者。外来の軽症患者がメイン。
・2つのスタディーでは全員にペニシリンを使用(?)
・2つのスタディーではアシクロビル・バラシクロビルを使用。
・症状改善はあったが軽度であった。症状期間の短縮はなし。再発、合併症に差はなし。
プレドニゾンにして60mgくらい、8日程度使用。
ウイルス性肝炎
・再発、あるいは死亡率を上げるのではないか?
・ランダム化試験はB型肝炎のみ。
・ステロイドは予後を悪化させた。
急性喉頭気管気管支炎(クループ)
・小児に投与すると、症状期間を短縮させる。外来、入院共に同様の結果。入院率、親の心配、医療費も減少した。入院期間の短縮はスタディーによりまちまち。挿管の必要や再挿管率も減少。
プレドニゾンにして200mgくらい、1日程度使用。
急性細気管支炎
・多くのスタディーはネガティブスタディー。
ウイルス性出血熱
・中国で99人を対象に(ハンタウイルス感染)。ステロイド無効。
細菌性髄膜炎
・抗菌薬投与5−20分前に使用することが多い。
・デキサメサゾンを使うことが多い。
・成人、小児共に質の高いスタディーがある。成人の意識状態、けいれん、死亡率を減少。特に重症肺炎球菌では。小児の難聴を減少。死亡率は変わらず。
・小児に対するスタディーでは「抗菌薬後」にステロイドを投与したのもあるのだそうだ。Arch Dis Child. 1996;75:482-88
・セフトリアキソンやバンコマイシンの髄液移行性は変わらず。
・治療が遅れるとステロイドのうまみは減るかもしれない。ネガティブスタディーはマラウイ、パキスタンからだった。
・プレドニゾンにして200mgくらい、4日程度使用。
細菌性肺炎
・1950年代に2つのスタディー。症状は良くなるがレントゲンは良くならない。死亡率は変わらず。
・7日間のステロイド投与で死亡率を下げた、というスタディーもある。患者は46人。Am J Respir Crit Care Med. 2005;171:242- 本当だろうか。
・プレドニゾンにして60mgくらい、治療は4日程度。
化膿性関節炎
・123人に4日間使用。熱、関節痛、可動域制限期間の短縮。抗菌薬使用量も減った。12ヶ月後の機能予後も良かった。Peiatr Infect Dis J. 2003;22:883
咽頭炎、咽頭周囲膿瘍
・7つのスタディー、852人の患者。咽頭痛は改善、ただし24-48時間のみ。欠席期間など他のパラメターは変わらず。リウマチ熱、再発も変わらず。
・咽頭周囲膿瘍に対しては症状改善が早まったという62人を対象にしたスタディーあり。J Laryngol Otol. 2004;118:439-
蜂巣炎
・112人の成人を対象としたスタディーで、8日間のステロイド使用で症状改善。再発率は変わらず。Scand J Infect Dis. 1998;30:206-
慢性滲出性中耳炎
・189人の小児を対象に2つのスタディー。抗菌薬不応。7-14日間のステロイドを抗菌薬と共に用いると、症状改善が早まった。
重症腸チフス
・意識障害かショックを伴う重症例に1つだけスタディーあり。
・デキサメサゾン2日間使用。デキサメサゾン 3mg/kg、その後1mg/kgを6時間おき。
・死亡率は56%から10%に激減!ARRだいたい2!!!!再発や消化管出血に変化なし。N Engl J Med. 1984;310:82-
破傷風
・63人の重症破傷風では、死亡率を55%から31%に減少も、統計的有意差なし。Clin Ther. 198;10:276-
百日咳
・小児対象にした1つのスタディーでは、11人採用で入院期間を18日から14日に減少、、、ううん。Pediatr Infect Dis J. 1992;11:982-
肺結核
・4つのスタディー、3つは1950-60年代のもの。症状やレントゲンは改善。2つのスタディーでは喀痰培養陰性化が速くなった。長期予後は差なし。再発や治療失敗、空洞閉鎖に差はなし。
・HIV患者では、CD4が上がり、「ウイルス価も上がった」。なんと。
リンパ節、気管支結核
・リンパ節が気管支を圧迫した117の小児の症例で、ステロイドは狭窄を改善。
結核性胸膜炎
・4つのスタディー、そのうち一つはHIV感染対象。
・胸水をあまり取らない場合はステロイドは症状改善に有用。胸水をたくさん取ると、ステロイドは無効。長期予後は関係なし。
・HIV患者では、ステロイド使用でカポジ肉腫が増えた。
結核性髄膜炎
・6つのスタディー、990人の患者。一つはHIV患者も含めた。重症患者が多い。
・ステロイドは全てのスタディーで死亡率を低下させた。合併症などについては変化なし。
・プレドニゾンにして100mg程度、30日程度使用。
結核性心外膜炎
・3つのスタディー、441人の患者。一つはHIV患者のみ。
・腹水、静脈圧、肝腫大などが改善。1つのスタディーでは心外膜せん刺の必要が減少。死亡率も減少。14-34%から3-17%に。
・10年後のmorbidityも減少。
・ただし、収縮性心外膜炎を合併すると、死亡率などに変化なし。
・プレドニゾンにして50mg程度、50日程度使用。
ニューモシスチス肺炎
・6つの489人のHIV患者を対象にしたスタディー、4つはブラインドがかけてある。2つはオープンラベルだが、ランドマークスタディーとして有名で、結果もオブザベーションバイアスにしては大きすぎるのでこの文献では採用。NEJM 1990;323:1451-, J Acquir Immune Defic Syndr. 1992;5:726-
・ステロイドは10-21日使用。症状が改善、2つのスタディーでは死亡率改善。23-31%から10-11%に。ただし、一旦呼吸不全が進んでしまうとステロイドは無効。7日間の使用では再発増加。
脳マラリア
・昏睡を長引かせ、消化管出血を増やす。有害無益。
脳嚢尾虫症(cerebral cysticercosis)
・60人の患者、新規のけいれん。浮腫を伴っている場合、けいれんの再発を減らした。抗けいれん薬は用いたが、抗寄生虫薬は不要だった。J Infect. 2006;53:65-
まとめると、
死亡率を下げるのが、細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、結核性心外膜炎、重症腸チフス、破傷風、中等度/重症PCP
予後改善が、化膿性関節炎
症状改善が、帯状疱疹、伝染性単核球症、クループ、肺炎球菌性肺炎、咽頭炎、扁桃周囲膿瘍、蜂巣炎、慢性滲出性中耳炎、脳嚢尾虫症、肺結核、リンパ節/気管支結核、結核性胸膜炎
効果ないのが、急性細気管支炎(RSV)、ウイルス性出血熱、百日咳、重症市中肺炎(ICUケア)
有害なのが、ウイルス性肝炎、脳マラリア
だそうな。
思ったのは、
・ステロイドは意外に無害
・症状改善に有効、というスタディーは思ったよりも多かった。
が、ステロイドの量や投与期間がばらばらなのと、パブリケーションバイアスの可能性なんかを考えると、どうかな?という気がしないでもありません。
あと、やはり「原因の分かっていない熱」にステロイド、「抗菌薬を併用しないでステロイド」は問題だと思います。ランダム化試験はありませんが、SARSのときはやはり骨壊死などの合併症が続発しました。それと、「ステロイドパルス」を必要とする感染症は本当に数えるほどしかない、ということも大事だと思います。本当は「ない」といいたかったのですが、腸チフスのスタディーを今回初めて知った(青木先生の記載は読んでいましたが、ARRまでは知りませんでした、、、)ので、、、、never say never、ですね。
皆さんはどうお考えになりますか?
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