被災地における咳の診方
自分が経験した診療所(石巻市)でのエンピリックなメモなので、エビデンスベイスドではもちろんありませんし、汎用性があるかどうかも分かりません。ただ、ご相談が多かったのでここでメモしておきます。申し訳ありませんが、本文の内容をご利用いただいた診療上のいかなるトラブルにも責任は持てません。それでも、もしお役に立てれば。という条件下ですが、転載フリーです。微妙な言い回しでごめんなさい。
ほとんどの咳は感染症ではない。本日、僕は咳に抗菌薬処方ゼロ。おそらくはホコリなどによる咽頭、気道刺激、あるいは鼻炎による後鼻漏が原因の咳の可能性が高い。
特徴
・咳に特化した症状で、発熱などを伴わない
・見た目元気で、細菌感染症、ウイルス感染症に特徴的な全身倦怠感、シックな感じがない。
・夕方だけ、夜間だけ、家族が家に帰ってきたあと、、、みたいな時間的にはっきりした傾向が強い。
・周囲(避難所内)に同じ症状の人はいないか、せいぜい一人。
除外
インフルエンザ
・発熱、咽頭痛、全身筋肉痛、関節痛、悪寒など
・迅速キットの限界を知ること。
・インフルエンザ様症状があれば、避難所ではインフルエンザとして感染管理をしたほうがよい。迅速キット陰性だから体育館にそのまま戻す、、はちとまずい。
急性咽頭炎
・咽頭にて発赤、腫脹、白苔。頚部リンパ節腫脹。咳が多い場合はウイルス性咽頭炎の可能性が高い。溶連菌キットがあれば便利(陽性に出る例の報告も。溶連菌は集団生活で流行りやすいので、10−40歳くらいの咽頭痛では要注意)。まさかの伝染性単核球症が除外できない場合(僕は1例経験)は、皮疹のリスクのあるサワシリンではなく、素直にクラビットを使ったほうがよいかも(被災地限定バージョン)。
風邪
・全身倦怠感、頭痛、鼻水などの症状を合併することが多い。各種風邪薬で対応。
肺炎
・やはり、咳以外の症状の有無が大事。超高齢者で不安だったら、微妙な症状である、診断に自信がないなどならクラビットなどで治療してしまうのも一法。
百日咳。
・予防接種を打っていれば、10歳未満ではまれだろう。高齢者でもまれだろう。きっつい咳が止まらないのが特徴で、上記の刺激性の咳と違い、「始終咳が止まらない」のが特徴か。ジスロマックなどで治療。3週間以上症状があればひたすら対症療法。
結核
・除外が極めて難しい。微熱、体重減少(服がゆるくなってきたなど)、盗汗などあれば、後方病院紹介か。後方病院も忙しいのだが、かといって体育館とかで流行すると悲惨なので、判断はとても難しい。鑑別には常に入れておくこと。
小児用のクラリスなどのマクロライドが過量投与されてすぐなくなってしまう診療所があるので、もっと大事に使うべき。薬は使いすぎるとなくなってしまう。
コメント
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