ようやくできました。こういう本を出せるのはとても嬉しいです。クリスマスのプレゼントに是非どうぞ。
注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSL 提出レポート
感染性心内膜炎(IE)の診断における経食道エコー(TEE)と経胸壁エコー(TTE)の特徴および有用性の違いは何か
IEは菌の種類、患者の基礎疾患などにより臨床像は非常に多彩で、診断の難しい疾患として知られる。よって、常にその可能性を鑑別診断に挙げることが重要であり、不明熱の重要な鑑別疾患である(1)。現在IEの診断基準としてDuke基準が広く知られている。この基準では、血液培養と同様に心エコー図を重要な検査とみなし、これら二つの所見を大基準としている(2)。エコーの方法としては経食道と経胸壁の2種類があり、IEを疑う患者に対してはまずTTEを行い、その後TEEを行うのが一般的とされる(3)。心エコー検査をなぜ2度も行うのか、それぞれの検査の違いについて興味をもったので両者の特徴および有用性について以下に考察する。
Fowler VG Jr1らは(4)、血液培養検査にて黄色ブドウ球菌が検出され、IEに頻発する所見(発熱、心雑音や末梢での出血など)を有する103人の患者に対して前向きコホート研究を行いTEEとTTEでのIEの発見率の違いについて調査した。Duke基準に基づいて診断するとIE確定とされる患者は25人であった。これらに対してTEEは感度32%,特異度100%であり、TTEは感度100%、特異度99%であった。
以上より、まず侵襲性の低いTTEによって検査を行い、陰性であるならば偽陰性である可能性を考慮し、より感度の高いTEEへと検査を進める現在の診断アルゴリズムは妥当だと言える。しかしながらこれらの検査における陽性とは、あくまで疣贅の存在を示したものにすぎない。IEの中には疣贅の存在しない、あるいは検出できない心内膜炎が存在することも考慮し(1)、Duke基準に基づいて血液培養の結果と総合的に考えて診断する必要がある。
(引用文献)
(1)レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 青木眞
(2)Up to date “Infective endocarditis: Historical and Duke criteria”
(3)Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis (JCS 2003)
(4)Fowler VG Jr1, Li J, Corey GR, Boley J, et al. Role of echocardiography in evaluation of patients with Staphylococcus aureus bacteremia: experience in 103 patients. J Am Coll Cardiol. 1997 Oct;30(4):1072-8
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感染症BSLレポート
細菌性の肝膿瘍に対してカテーテルドレナージと穿刺吸引のどちらが有用か
細菌性の肝膿瘍に対してはエンピリカルに抗菌薬を静注するとともに基本的には何らかのドレナージを行うことが一般的である。経皮的ドレナージであるカテーテルドレナージと穿刺吸引のどちらがより治療効果が高いかを調べた。
Yuらによって行われた超音波ガイド下による経皮的カテーテルドレナージと穿刺吸引法の前向きランダム化比較試験では、各32名の患者で比較を行った。治療成功率(カテーテル:穿刺吸引30人:27人 p=0.426)、それぞれの群で一人ずつ外科的ドレナージを再試行、死亡率(1人:4人 p=0.355)となり、ドレナージと穿刺吸引の治療成績に有意差はみられなかった。なお治療成功は手術を必要としないぐらいのドレナージができたことと定義されていた。(1)
Zeremらによって行われた超音波ガイド下による経皮的カテーテルドレナージと穿刺吸引法のランダム化比較試験では、各30名の患者で比較を行った。腫瘍径の関係ない治療成功率はカテーテル:穿刺=100%:67%(p<0.001)であったが50mm以下の膿瘍ではともに100%であり、同等の効果がえられた。また、肝膿瘍の個数別に検討すると穿刺吸引群は多発膿瘍の患者5人中5人の治療に失敗した。以上よりカテーテルのほうが有用という結果になった。多発膿瘍の治療にはカテーテル留置がよいと述べているものの、穿刺吸引で失敗した症例の考察はなかった。治療成功は肝膿瘍の直径が治療前の50%以下になったことと臨床症状の鎮静化と定義されており、3回目の穿刺吸引で反応がなかった場合は治療不成功とした。(2)
二つの研究の治療成功率に差が出た理由としては、Yuらの研究は穿刺吸引の回数に制限を設けていないのに対して、Zeremらの研究では3回目に反応がない場合は治療を失敗としていることが考えられる。そして、多発膿瘍の症例で穿刺吸引群の治療効果が不良であった理由としては、多発膿瘍では長期的なドレナージが必要な膿瘍が多かった可能性が考えられる。
サンプル数の少なさゆえどちらが有効かを確定することは困難であるため、より大規模なスタディがなされることが望ましいが、現時点ではカテーテルドレナージを留置することが適切と考えられる。
参考文献
1)Treatment of Pyogenic Liver Abscess:Prospective Randomized Comparison of Catheter Drainage and Needle Aspiration Simon C.H. Yu et al. HEPATOLOGY 2004;39:932-938
2)Sonographically Guided Percutaneous Catheter Drainage Versus Needle Aspiration in the Management of Pyogenic Liver Abscess Enver Zerem , Amir Hadzic AJR:189,September 2007
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カテーテル挿入部のクロルヘキシジンアルコール製剤による皮膚消毒でCRBSIは減少させられるか?
米国CDCのカテーテル関連感染予防ガイドライン2011では中心静脈・末梢動脈カテーテル挿入前の消毒薬として>0.5%クロルヘキシジン(以下CHG)アルコールを第一選択としている(1)。しかし日本では本ガイドラインの発表後もポビドンヨード(以下PVI)水溶液の使用率が高い(2)。CHGアルコール製剤の使用によりCRBSIを減少させる事が可能か考察する。
Yamamoto(3)らは血液内科に入院中の84患者の中心静脈カテーテル挿入例に対し1%CHG+70%エタノール製剤と10%PVI水溶液を用いたランダム化比較試験を行った。CRBSIの発生件数は2件と7件、1000日カテーテルあたりのCRBSI発生件数は0.75と3.62(p=0.04)であった。この試験では有害事象に関する記述はなく詳細は不明である。
またMimoz(4)らは1181患者のカテーテル挿入例に対し2%CHG+70%イソプロピルアルコール製剤と5%PVI+69%エタノール製剤を用いたランダム化比較試験を行った。1000カテーテル日あたりのCRBSI発生件数は0.28と1.32(p=0.003)であった。有害事象は全身性のものはなく、皮膚反応の発生率が3%と1%(p=0.0017)であった。
以上のようにCRBSIの予防に関してはCHGが優位な傾向を示していると言える。しかしCHGの最適な濃度については統一された見解が無く、CDCガイドラインも>0.5%という曖昧な表現に留まっている。有害事象も考慮した異なる濃度のCHGの比較試験が必要であろう。また有害事象の発生率には人種差もあると考えられており、日本人を対象とした大規模試験が望まれる。
参考文献
献本御礼。
僕はごはんを茶碗5分の1くらいしかよそらない炭水化物摂取の低い人ですが、ホームベーカリーでパンを焼き、パスタマシンでパスタも作り、ケーキも大好きという側面も持っています。拙著にも書いたように、ローカーボ食もハイカーボ食もどっちでもOK、というタイプです。
なので、ご飯好きの人は僕の言うことはほとんど気にしません。「ちゃんと勉強してる」糖質制限派の人も別にどうということはないでしょう。ところが最近、宗教的なまでに糖質制限に入れあげている人たちが増えてきて、そういう人は僕の書くものにいちいち噛み付いてきます。僕が糖質制限の絶対性を否定し、神格化しないからです。
今日は世界エイズデーです。エイズ治療戦略のARTは人類史上最も高い成果を上げた科学と人智の傑作です。何しろ死亡率100%の病気を、かなり死亡率0%にまで近づけたのですから。血管領域の疾患でも腫瘍領域の疾患でもこれだけ臨床インパクトの大きな治療法は稀有でしょう。そりゃ、天然痘ワクチン(種痘)とかもすごかったけど、あれも死亡率3割くらいの病気で自然治癒の方が多かったことを考えると、ARTのインパクトはそれ以上と言えます。ま、将来その座はHCV治療薬(たち)にとって代わられるかもしれませんが。
しかし、そのような現代科学の最高傑作たるARTですら問題点は山のようにあります。今も毎年100万人以上の人がエイズで亡くなっています。え?ART死亡率ゼロとか言ってなかった?そう、ARTは高額で、特に飲み続けやすいものほど高額なのです。安い薬は副作用が多く、飲み続けにくい。耐性ウイルスも問題です。そういう意味ではイベルメクチンの方が実貢献度は高いのかもしれません。もっと安全でもっと安いARTは必要で、まだまだARTも「道半ば」なのです。
現代医学史上最高のARTですら問題ありありで、今もベターな方法が模索され続けているのです。それなのに一部の宗教的な糖質制限主義者たちはそのオールマイティーっぷり、無謬ぶりを頑迷に主張し、また強要します。成功例だけをことさらに取り上げて、失敗例を無視します。いや、本当に見えていないのかもしれません。
本書でも取り上げられている「医者が知っておくべき」50の研究では、体重減少をアウトカムとしてローカーボなどいろいろなダイエットをランダム化して比較した研究が紹介されています。これによると、体重減少というアウトカムにおいてはどの群にも有意差は出なかったのです。著者は熱意を持ってその食事方法に取り組めば、その方法が何であるかは問題ではない、と述べています。だから、宗教的なまでに糖質制限にコミットするのは、そういう意味では悪い「メンタリティー」ではありません。そして、そういう人は多分ダイエットに成功している、、、ただし、同じメンタリティーで異なるダイエットをしても、同じアウトカムは得られるのです。
と言うよりも、糖質制限でもうまくいかない人がいる、他の方法でもうまくいく人がいる、という自覚はむしろ糖質制限の科学性を担保するのに必須な条件なのです。どんな治療だって百戦百勝、NNT=1ということはないのです。だから、科学を理解している人なら、ある治療法の瑕疵があることそのものは問題にしません。それを問題視するのは、科学を宗教化している場合だけです。
今でも諸学会では「なんとかが著効した一例」みたいな武勇伝を羅列しますが、ああいう武勇伝には科学性は担保されていません。なので、なぜ学会で発表するのかわかりません。大切なのは、うまくいかなかったデータも等しく開陳する、あるいはうまくいかなかった事例を分析することなのです。ARTは史上最高の治療戦略(の一つ)ですが、だからこそ失敗事例を我々は山のように分析してきました。それこそがARTのクレディビリティーを高めていてくれるのです。
本書で紹介されている諸論文はどれも基本的なものばかりで、それこそ「すべての医師が読むべき」論文です。しかし、この論文のやり方を踏襲することが我々のやるべきことではありません。すでに本書が出た後でEGDTなんかはまたしても混沌の中にいます。ただ、大切なのはデータを真摯にゼロベースで読み、科学に誠実であること。誠実であるというのは盲信することではないこと。こういう基本的な論文を読み続ける先にしか「科学的に妥当な方法(食事法含む)」の吟味や担保はありえないことだけは、ちゃんと知っておくべきなのです。だから、本書は本当に「医師ならみんな読むべき」となるわけですが、それはそこに大きくて深刻な欠落があるからなのです(もっとも、本書のような企画が成立するということは、アメリカでもその深刻な欠落はあるのだ、という当たり前の事実に気付かされますが)。
投稿情報: 16:19 カテゴリー: 考え方のピットフォール | 個別ページ | コメント (0)
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献本御礼。
「こうすればガンにならない」とか「病気にならない生活法」「〇〇になりたくなければ✖️✖️をしなさい」といったタイトルの本とは真逆の本です。この手の健康本で信用に値するものはほとんどゼロですが、残念なことに、非常に残念なことにこういう本の方がよく売れるのもまた事実。多くの患者候補には読んで欲しい内容ですが、果たしてどうなることやら。
ところで、「こうすればガンにならない」系の本がほとんどインチキとかトンデモなのはいいとして、そういうインチキ/トンデモに警鐘を鳴らす「アンチ/トンデモ」本とも一線を画しているのが本書の特徴です。簡単に言うと、医者をあまり擁護していません。「アンチ/トンデモ」はプロ科学、プロ医療な訳ですが、同時にプロ(オーセンティックな)医者だったりする訳です。しかし、実は医者は案外科学的でも理性的でもない訳で、そういう意味では本書は案外アンチ/現代医学な本です。言ってみれば、科学教信者というか。
というか、本書はタイトルからして患者に向けて書かれた本のようなふりをして、実は医者に向けれて書かれているとすら勘ぐりたくなります。僕に送られてきたのは、想定読者だったからだったりして。ポリファーマシーや検査漬けには気をつけよう、とか「全人的すぎる医者」には気をつけよう、というメッセージは、実は医者に向けられたメッセージなのではないでしょうか。
医者の言うことは「話半分」でいい、というタイトルは、医者は意味のあるメッセージを50%程度しか出しておらず、残りの半分は無意味か、むしろカウンタープロダクティブで有害な言葉なのだ、という指摘でもあります。それは実に事実だと思います。「医者の言うことは全部聞いとけ」とならないのはどうしてなのか、どうすれば医者の言葉が患者にとって価値のあるものになるのか、本書の示唆するところは実に大きいです。だから、本書は患者にも読んで欲しいですが、医者にも是非読んで欲しい。うちの病院とか全員読むべきだと思うけど、(たいていのメッセージがそうであるように)メッセージの必要な相手には本も言葉も届かない、のが常なんだよなあ。僕の抗菌薬の本とかも、本当に読むべき人は、たいてい読んでない。
というわけで、本書が読むべき本なのは声を大にして言いたいですが、読むべき患者、読むべき医者に本書が届くかどうかというと、そんなに楽観視できません。これは一つのアポリアだと思います。
あ、病歴オタクの僕は患者から病歴を聞きたがりすぎる、という本書の指摘にとても反省させられました。やはり本書は僕のために送られてきたのでした。
投稿情報: 15:43 カテゴリー: 考え方のピットフォール | 個別ページ | コメント (0)
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糖尿病性足病変における感染の起因菌の診断では創表面のスワブからの培養は有用か?
実習で糖尿病足感染症の患者を担当した。担当症例では、創部浸出液をスワブで擦過して採取した培養でPseudomonas putidaが検出されていたが治療ではカバーしていなかった。スワブの培養が起因菌を診断する上で有用であるか疑問に思い、調べることにした。
Infectious Disease Society of America(IDSA)によるガイドライン(2012)には、スワブでの検体採取は避け、洗浄しデブリードマンされた創部から生検もしくは搔爬により採取した深部組織を検体とするよう書かれていた。その理由として、スワブでは表層の細菌を擦過し培養するため、皮膚の細菌叢や定着菌により汚染され偽陽性になりやすく、また深部組織に存在する病原微生物は検出されず、嫌気性菌は発育しないために偽陰性となることが挙げられていた1)。
Chakrabortiらによる下肢の創傷における創表面の擦過検体(半数は糖尿病患者のもの)を深部組織の培養結果と比較したシステマティックレビューでは、創表面のスワブ検体の起因菌検出における感度は42%、特異度は62%、陽性尤度比1.1、陰性尤度比0.67であった2)。つまり、スワブは起因菌の検出において感度特異度共に不十分であり、有用な検査ではないと考えた。
また、Demetriouらは、臨床的に感染を伴う50人の糖尿病性足潰瘍の患者を対象とし、神経障害性(グループA、22人)と神経虚血性(グループB、22人)の二群に分け、デブリードマン後に潰瘍底のスワブと組織パンチ生検の両方を取得し、培養結果を比較した。組織生検で検出された菌を真の起因菌とした時のスワブの検出の感度はA群で100%, B群で100%、特異度はA群14.3%, B群18.2%、陽性的中率はA群 53.8%, B群55.0%、陰性的中率A群100%, B群100%であった3)。この結果から、両群において、スワブは特異度が低く、真の病原微生物の推定には有用ではなかった。
さらに、Sennevillらは、糖尿病性足病変に合併する骨髄炎で、骨生検を行い培養陽性であった76人(81サンプル)について、骨髄炎の起因菌の診断におけるスワブの有用性を後ろ向きに検討した。骨生検(ゴールドスタンダードとされている)とスワブの培養結果で一致が見られたのは22.5%のみであった4)。
以上より、スワブは非侵襲的かつ簡便ではあるが、真の起因菌の検出が困難であることから、起因菌の診断には用いるべきではないと考える。
【参考文献】
1) Lipsky BA et al. 2012 Infectious Diseases Society of America clinical practice guideline for the diagnosis and treatment of diabetic foot infections.
2) Chakraborti C, Le C, Yanofsky A. Sensitivity of superficial cultures in lower extremity wounds. J Hosp Med. 2010 Sep;5(7):415-20.
3) Demetriou M et al. Tissue and swab culture in diabetic foot infections: neuropathic versus neuroischemic ulcers. Int J Low Extrem Wounds. 2013 Jun;12(2):87-93.
4) Senneville E et al. Culture of percutaneous bone biopsy specimens for diagnosis of diabetic foot osteomyelitis: concordance with ulcer swab cultures. Clin Infect Dis. 2006 Jan 1;42(1):57-62
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感染症レポート
テーマ:デング熱に対する検査はどれくらい正確なのか?
デング熱はフラビウイルス科のデングウイルス科に分類される蚊媒体のウイルス性疾患であり、現在熱帯地方で流行している感染症である。急性デングウイルス感染はPCR法によるウイルスRNAの検出やELISA法によるNS1抗原やIgM抗体が検出されることで診断される1)が、その検査結果はどの程度正確であるのかについて調べた。
Stuart D. Blacksell2)らは、2004年6月から2005年6月に急性デングウイルス感染の診断に対するNS1抗原とIgM抗原の検出の評価についての研究を行った。それによると、入院時(発熱から約5日目)のELISA法によるNS1抗原,IgM抗原の感度はそれぞれ63%(24/38), 45%(17/38)で特異度は100%,94%(51/54)であった。それに対して、回復期(発熱から約9日目)のNS1抗原,IgM抗原の感度は5%(2/38), 58%(22/38)で特異度は100%,72%(39/54)であった。また、NS1抗原の感度は発熱から1.2日目では100%(3/3)であるが、3.4日目では57%(4/7)、5.6日目では36%(9/25)、7日目以降では24%(10/41)と低下する。それに対してIgM抗原の感度は入院時(約5日目)と回復時(約9日目)を比較してもあまり変化はなく(図1)、NS1抗原とIgM抗原両方が陽性であったサンプルは全て発熱から4-8日後であった。また、デングウイルスには4つの血清型があるが、IgM抗原は全ての血清型で検出されたが、NS1抗原はDEN-3の2人の患者(0%)において検出されなかった。また入院時において、初感染でのNS1抗原とIgM抗原の感度は75%(3/4),75%(3/4)で、別の血清型による再感染では60%(20/33),39%(13/33)であった(図2)。
Piyanthida Pongsiriら3)がデングウイルスに対するreal-time RT-PCR法の感度・特異度を調べたところ、感度98%、特異度93%、正確性96%ということであった。
これらのことから、PCR法は感度・特異度も高い検査であるが、ELISA法と比較すると簡便性に欠ける。一方でELISA法は発症からの日数によって陽性となる抗原が変わるので、偽陰性に注意して検査することが重要である。デング熱を疑った際にはこれらのことに気をつけて迅速に行うべきである。
(レポート中の図は割愛)
参考文献
1)人獣共通感染症,木村哲、喜田宏 編、医薬ジャーナル社、2004:89-91.
2)Stuart D. Blacksell et al,Evaluation of the Panbio dengue virus nonstructural 1 antigen detection and immunoglobulin M antibody enzyme-linked immunosorbent assays for the diagnosis of acute dengue infections in Laos. Diagn Microbiol Infect Dis.2008(60):43-49
3)Pongsiri P, Praianantathavorn K, Theamboonlers A, Payungporn S, Poovorawan Y. Multiplex real-time RT-PCR for detecting chikungunya virus and dengue virus. APJTM. 2012;5(5):342-6
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脳膿瘍と脳腫瘍の鑑別にMRIの通常撮影以外の方法は有用か
脳膿瘍は限局性の脳実質の化膿性炎症で、病原体が脳実質内に進入し脳組織を破壊して形成される。症状としては発熱、頭痛、神経学的局所所見などがあり、鑑別すべき疾患としては原発性、転移性脳腫瘍がある1)。これらを鑑別し診断するうえで、MRIが重要な検査となる。脳膿瘍の画像所見として、造影MRIで被膜がリング状増強効果を示すことが有名である。また、中心壊死部がCTで低吸収、MRIのT1強調像では低信号、でT2強調像では高信号を示す。しかし、中心壊死をともなうのう胞性の脳腫瘍は同様の所見を示し、これらの鑑別が困難となることがある2)。この鑑別にMRIの通常撮影(T1強調像、T2強調像)以外の方法がどれほど有用なのかを考察していく。
X.X. Xuら3)は、1995年から2013年に行われた、14件の頭蓋内にリング状増強効果を示す病変に対してのMRIの拡散強調像(DWI)の診断精度に関する研究を集め、メタアナリシスを行った。所見としては、脳膿瘍はDWIでは高信号を示し、その他の腫瘍性のう胞はDWIでは低信号を示していた。また研究の結果としては、脳膿瘍の診断におけるDWIの感度は95%(95%CI 87%-98%)特異度は94%(95%CI 88%-97%)、陽性尤度比は4.13(95%CI 2.55-6.7)、陰性尤度比は0.01(95%CI 0-1.7)であった。最終的な診断は、全て手術もしくは生検によって決定されていた。しかし、事前に抗菌薬が投与されていた脳膿瘍では、腫瘍性のう胞のようにDWIで低信号を示すものが多く見られため、注意が必要である。
また、MR Spectroscopy(MRS)という撮影方法に関する研究もある。MRSとは、脳の代謝物の内容を計測することができるMRIの機能のひとつである。Ping-Hong Laiら4)は、50人(組織学的診断で、脳膿瘍が21人、腫瘍性のう胞が23人、類表皮のう胞が3人、くも膜のう胞が3人)の頭蓋内のう胞性病変をもつ患者を集めた。これらの患者に、通常のMRI(T1強調像、T2強調像)、DWI、MR Spectroscopy(MRS)の三つの方法で診断を行い、それらの診断精度に関する研究を行った。結果は、脳膿瘍に対しての通常のMRIの感度は61.9%(95%CI 38.4%-81.9%)特異度は60.9%(95%CI 38.5%-80.3%) 、MRSの感度は85.7%(95%CI 63.7%-97%)特異度は100%(95%CI 85.2%-100%)、 DWIの感度95.2% (95%CI 76.2%-99.9%) 特異度は95.7% (95%CI 78.1%-99.9%)、MRSとDWI併用の感度は95.2% (95%CI 76.2%-99.9%)特異度は100% (95% CI 85.2%-100%)となった。所見としては、脳膿瘍はDWIで高信号を示し、MRSでは乳酸と細胞質アミノ酸に加え、酢酸、コハク酸などがみられるものが多かった。脳膿瘍以外ではDWIは低信号を示し、MRSでは乳酸のみがみられるものが多かった。しかし、病変部に隣接組織の成分が混入している場合は診断精度に欠けるとされているので注意が必要である。
以上より、脳膿瘍の診断ではMRIのDWIやMRSといった撮影方法は感度、特異度ともに十分に高く、脳膿瘍と脳腫瘍の鑑別には有用であるといった結果が得られた。DWIはMRSと比較すると、撮影時間が短い3)4)というメリットがあり、実際の臨床ではDWIの方が脳膿瘍の診断には重宝されるであろう。また、MRSに関する研究はDWIのメタアナリシスに比べれば質が劣ると考えられるため、今後さらなる研究が必要である。最終的な診断は組織学的に行う必要があるが、検体の採取が難しい場合などは血液培養やこれらの画像検査を組み合わせることで脳膿瘍と脳腫瘍の鑑別を行うのがよいと考える。
参考文献
1) レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木 眞/医学書院
2) 脳MRI〈3〉血管障害・腫瘍・感染症・他 高橋 昭喜 /秀潤社
3) X.-X. Xu et al: Can diffusion-weighted imaging be used to differentiate brain abscess from other ring-enhancing brain lesions? A meta-analysis. Clinical Radiology 69 (2014) 909e915
4) Ping-Hong Lai et al: Proton magnetic resonance spectroscopy and diffusion-weighted imaging in intracranial cystic mass lesions. Surgical Neurology 68 (2007) S1:25–S1:36
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帝王切開を受ける妊婦の予防的抗菌薬投与のタイミングはいつがよいか
帝王切開の術後感染症予防としての抗菌薬投与のタイミングは、新生児への抗菌薬暴露の懸念から臍帯クランプ後が推奨(1)されてきた。というのも、新生児の抗菌薬への暴露による常在細菌叢の破壊や耐性菌の誘導が問題視されてきたからである。しかし、2010年米国産科婦人科学会(ACOG)による勧告(2)が出され、手術前の投与が推奨されることとなった。帝王切開前に抗菌薬を投与することの有用性について考察する。
Costantin(3)らは、帝王切開に対する予防的抗菌薬投与を術前と臍帯クランプ後で比較した3つのランダム化比較試験(4)(5)(6)のメタ解析を行った。3つのランダム化比較試験では抗菌薬としてすべてセファゾリンが用いられ、377人が術前に、372人が臍帯クランプ後に投与された(表1)。その結果、子宮内膜炎を起こしたのは15人(4%)、33人(8.9%)で、相対危険度は0.47であった(95% CI, 0.26-0.85; P= 0.012)。創部感染を起こしたのは12人(3.2%)、20人(5.4%)で、相対危険度は0.60であった(95% CI, 0.30-1.21; P= 0.15)。これらを含むすべての感染を起こしたのは27人(7.2%)、54人(14.5%)で、相対危険度は0.50であった(95% CI, 0.33-0.78; P= 0.002)。術前の抗菌薬投与は子宮内膜炎、すべての感染の発生リスクを有意に下げた。創部感染の発生リスクに有意差はなかった。一方で、新生児敗血症(RR, 0.93; 95% CI, 0.45-1.96; P= 0.86)、敗血症疑いで検索を必要とした例(RR, 1; 95% CI, 0.70-1.42; P= 0.99)、NICUへの搬送(RR, 1.07; 95% CI, 0.51-2.24; P= 0.86)の発生リスクに有意差はなかった。
表1
以上より、帝王切開前の抗菌薬投与は臍帯クランプ後の投与と比べて、母体の術後感染症のリスクを低下させることがわかった。新生児の合併症に影響を与えることはなかった。術前に抗菌薬を投与することは術後感染症予防の観点から有用であると考える。
<参考文献>
1) Smaill F1, Hofmeyr GJ. Antibiotic prophylaxis for cesarean section. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(3):CD000933.
2) ACOG TODAY SEPT / OCT 2010 p.10
3) Costantine MM, Rahman M, Ghulmiyah L, et al. Timing of perioperative antibiotics for cesarean delivery: a metaanalysis. Am J Obstet Gynecol 2008;199:301.e1-301.e6.
4) Sullivan SA, Smith T, Chang E, Hulsey T, Vandorsten JP, Soper D. Administration of cefazolin prior to skin incision is superior to cefazolin at cord clamping in preventing postcesarean infectious morbidity: a randomized, controlled trial. Am J Obstet Gynecol 2007; 196:455.e1-5.
5) Wax JR1, Hersey K, Philput C, et al. Single dose cefazolin prophylaxis for postcesarean infections: before vs. after cord clamping. J Matern Fetal Med. 1997 Jan-Feb;6(1):61-5.
6) Thigpen BD, Hood WA, Chauhan S, et al. Timing of prophylactic antibiotic administration in the uninfected laboring gravida: a randomized clinical trial. Am J Obstet Gynecol 2005;192:1864-71.
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