著者献本御礼
川端裕人氏が聞き手になってまとめられた本。
すごい。これまでブラックボックスになっていた第一波収束までの政府の内部事情がかなり詳しく理解できる。関係諸氏は必読だ。
西浦先生は極めて純粋な学者だし、善良な医療者だからここまで率直に、そして正直にやる。だからこそ、その文章は信用できる。今や国内外問わず、「平気で嘘をつく」ことが日常的、かつ普遍的になってきた昨今、コンテンツのクレディビリティは正直さにしかないのだと、改めて思い知る。論文書く人には常識なのだが、、、いや、最近は論文書く人ですらこのへんが怪しいこともあるのだが、、、、本来、文章とはこうあるべきだ。
西浦理論、数理モデルの内容を論評する能力は僕にはない(どこかでも書いたが、ぼくは西浦先生から数理モデルの初歩の手ほどきを受けた立場だから)。が、感染症の様々な様相に対する理解、見解は概ねぼくと西浦先生は共通している。例えば、シンガポールのコロナ死亡が少ないこととか、ワクチンについて、あるいは「ファクターX」と呼ばれるものの有無について、など。このへんは、ぜひ本書を読んで確認していただきたいと思う。
ときに、ダイヤモンド・プリンセスについて。西浦先生は当時のデータを使って時系列の実効再生産数をまとめている(p31)。2月3日から7日、そして7日から11日にかけて一気にRtが下がっている。よって「船内検疫は、、、、新規感染者数を減らす効果があった」というものだ。
それはそのとおりだ。感染しまくり状態のクルーズ船から隔離検疫という介入を加えれば新規感染が激減するのは当然だからだ(何も対策がないときにコロナで死亡者が、、、という議論を思い出せば分かる)。しかし、検疫隔離開始が2月5日。7日にもRtは6程度、その後も15日までRtは1程度で再生産は収まらず、19日には1以上に上がっている。
西浦先生以外にも同様の解析はある(これは、J-IDEOで紹介する)が、要するに14日間の隔離期間での新規感染は防げていなかった、というのが西浦データの示すところである。「減らしてるんだからいいじゃないか」と思ってはいけない。なぜなら、あの「14日」という隔離期間は、その隔離期間中新規感染が全く起きていない、という前提を満たしてこそ正当化できる隔離期間だからだ。隔離期間中に新規感染が起きれば、当然必要な隔離期間は延びる。事実、諸外国は日本の船内感染対策を信用せず(その理由の一部にはぼくのせいだ)、帰国後追加の14日の隔離期間を起き、そしてその一部は新規にCOVID-19を発症した。ところが、日本で下船した人は追加の隔離期間は設けられなかったので、下船後新規の発症も起きた。不顕性感染が相当数あるのはダイヤモンド・プリンセス号のデータ自身が教えてくれることであり、PCR偽陰性の問題もからめて、相当数の方が隔離期間中にSARS-C0V2に感染していたであろうことが推測される(厚労省官僚やDMAT隊員なども含む)。だから、一部の官僚や政治家の言う「二次感染は起きなかった」という主張は西浦データからも明らかに間違いだ。また、「14日」という期間を設定し、そこにアウトカムを見出した以上、船内の感染対策は「失敗だった」と判断せざるを得ない。もし、「減らすだけでもいいじゃん」というアウトカムならば、隔離期間を伸ばすべきだったのだ。いずれにしても論理の齟齬は明らかだ。
まだまだコロナの流行が大きく我々の生活に影響を与えている以上、本書を冷静に読むことは難しい、という方もいるかもしれない。4年後、いや、10年後でもいいからぜひ本書を読んでいただきたい。いろいろなものは風化するが、事実の伝承は大切だからだ。国家は歴史を捏造してはいけない。文明国家であるための、最低限の条件だ。
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