膿胸の予後増悪因子にはどのようなものがあるか
膿胸とは「胸腔内に膿が貯留した状態」であり、特に発症から3ヵ月以上経過したものを慢性膿胸と呼ぶ。原因としては感染症が最多で、他には外科的処置後、外傷後、食道破裂などがある。私が担当させて頂いた患者さんは食道癌で食道を全摘、縦隔再建術を行ったが術後からバイタルが安定せず膿胸と菌血症を発症した。膿胸の予後について興味を持ったので今回レポートのテーマとし、二つの論文を基に作成した。
英国では臨床リスクスコアを作成して早期管理戦略に役立てることを目的として、以下の研究が行われた。臨床リスクスコアは、英国の多施設胸膜感染試験に参加した411人の患者のデータを用いて3ヵ月での死亡率、3ヵ月での外科的介入の必要性、および参加患者の無作為化から退院までの時間を調べた。結果として年齢、尿素、アルブミン、院内感染、および非膿性は予後不良を予測した。この結果からRAPIDスコア(renal, age, purulence, infection source, and dietary factors)が導出された。このスコアは先ほどとは異なる191人の患者を使用して検証された。結果として死亡率と入院期間は、RAPIDスコアの増加と関連していた。
スコア |
0 |
1 |
2 |
0 |
1 |
2 |
Renal |
BUN |
<14 |
|
|
14-22.4 |
|
|
>22.4 |
Age |
|
<50 |
|
|
50-70 |
|
|
>70 |
Purulence of fluid |
膿性 |
|
0 |
|
非膿性 |
|
1 |
Infection source |
市中 |
|
0 |
|
院内 |
|
1 |
Dietary |
血清アルブミン(g/dL) |
≧2.7 |
0 |
|
|
<2.7 |
1 |
以上の研究では、腎、年齢、化膿、感染源、および食事因子を含むスコアリングシステムが、膿胸患者の死亡率の評価および予後不良の予測に有用であることが示された。
倉敷中央病院ではこのRAPIDスコアに加えて、病原体と膿胸の予後との関連、膿胸の臨床的特徴を特定し、細菌病因を含む予後因子を調査することを目的として研究が行われた。
2007年5月から2015年9月の間に倉敷中央病院に入院した膿胸患者の前向きに収集されたデータベースから胸水細菌培養で陽性の結果を示した71人の患者のみを含めて、患者の特性、細菌学的所見、治療、結果を収集し、院内死亡の予後因子を評価した。最も一般的に分離された細菌は、Streptococcus anginosusグループ(37%)のものであり、嫌気性菌(30%)がそれに続いた。院内死亡率は11%だった。多変量解析では、多菌性膿胸(オッズ比[OR]、8.25; 95%信頼区間[CI]、1.08–62.90)およびRAPIDスコア(OR、6.89; 95 %CI、1.73〜27.40)が院内死亡の重大な危険因子であった。多微生物性膿胸の最も一般的な病因は、S.anginosusグループのメンバーと嫌気性菌の組み合わせだったが、微生物の組み合わせと予後の間に相関関係は見られなかった。また生存者グループと非生存者グループの間で治療に有意差は認められなかったが、手術を受けたすべての患者は生存した。結論として病因が多細菌性であることとRAPIDスコアは予後増悪因子と関連していたといえる。
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