感染症内科 BSLレポート
下肢麻痺を伴わない膀胱直腸障害はどのくらいあるか
今回の実習では発熱、排尿障害(尿閉)を主訴に入院された症例を担当した。髄液検査の結果、細胞数の上昇・糖の低下なくウイルス性髄膜炎が疑われている症例だ。仙髄病変の波及による髄液異常が疑われている。今回の症例では下肢麻痺を伴わない排尿障害が見られていたため、下肢麻痺を伴わない膀胱直腸障害はどの程度あるかというテーマを設定した。
膀胱直腸障害を来す脊髄病変には、円錐上部症候群,脊髄円錐症候群,馬尾症候群があり,その原因の一つは脊髄腫瘍がある。今回はそのうち脊髄鞘腫が原因となった円錐症候群の症状を調べた報告を紹介する。症状は下肢運動障害や感覚障害に加えて、膀胱直腸障害を含めた多彩な障害が見られる。
41例のTh12レベル以下に発生した孤発性脊髄神経鞘腫をTh12〜L1/2高位の脊髄円錐群(29例)とL1/2高位以下の馬尾神経群(12例)に分けて評価した。脊髄円錐群では6例(21%)で下肢筋力低下を伴う歩行困難を訴え、馬尾神経群では歩行困難の自覚症状はなかった。また機能評価では、脊髄円錐群では29例中11例(38%)において有意な下肢筋力低下による歩行障害を認め、馬尾神経群では12例中1例(8%)で下肢筋力低下による歩行障害を認めた。また排尿障害は脊髄円錐群では29例中10例(34%)において認められ、馬尾神経群では12例中2例(16%)で認められた。
胸腰椎移行部では,脊髄円錐および馬尾神経が混在するため,脊椎高位に限局した症状を呈することはまれである。下肢運動にかかわる骨格筋を支配する脊髄前角細胞はL1髄節からS2髄節に存在し,脊椎高位としてはTh12から L1 高位に相当する。排泄にかかわる会陰筋および括約筋を支配する脊髄前角細胞は,S3 あるいはS4髄節に存在し,脊椎高位としてはL1高位に限局している。さらに,馬尾神経はL2あるいはL3以下の神経根の集合体として構成される。このような解剖学的特徴のため,腫瘍の局在あるいは伸展に伴って影響を受ける髄節レベルあるいは神経根が異なるため,症状が大きく異なるものと推測される。今回細かな数字は見つけることができなかったが、特に馬尾神経群では歩行障害を認めないが排尿障害を認めたデータがあることから、腫瘍の局在によりは下肢麻痺を伴わない膀胱直腸障害ある程度存在すると思われる。
Clinical Characteristics and Surgical Outcomes of Schwannoma Arising from Conus Medullaris or Cauda Equina, Atsufumi Nagahama, Kentaro Naito, Toru Yamagata, Kenji Ohata, Toshihiro Takami, Spinal Surgury 31(1)93-95, 2017
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