BSL 感染症内科 レポート
「同種造血幹細胞移植後の慢性GVHDの背景がある患者に対する抗菌薬の予防的投与は有効か。」
XXX慢性GVHDの背景下では免疫能が低下し感染のリスクが高まる。そのような患者に対して予防的に抗菌薬を投与することは有効か、またその場合どのような抗菌薬を投与すれば良いか興味をもち、調べることにした。
CIBMTRなどが作成した「造血幹細胞移植レシピエントの感染症合併予防のためのガイドライン」(1)では、同種造血幹細胞移植後の慢性GVHD患者への長期の抗菌薬の予防的投与は、積極的な慢性GVHDに対する治療を行っている患者に対する、肺炎球菌をターゲットとした抗菌薬投与のみが推奨されている。経口のペニシリン投与が第一選択であるが、抗菌薬の選択はその地域における肺炎球菌の薬剤耐性のパターンによって第二世代のセファロスポリン系、マクロライド系、キノロン系などを選択することが推奨されている。またSamar Kulkarniらの研究(2)では、1329名の造血幹細胞移植後の患者で、肺炎球菌性敗血症を発症した31名を分析した。このうち8名はペニシリンの予防的投与を行っており、23名は行っていなかった。この8名についてはペニシリン耐性菌の出現が考えられる。31名のうち7名は敗血症が原因で死亡したが、この中に予防的投与を行っていた者はいなかった。このことは、ペニシリンの予防的投与はペニシリン耐性がある肺炎球菌性敗血症であっても、その重症度を軽減する効果が期待できることを示唆している。一方でDiana Averbuchらの研究(3)では、造血幹細胞移植後の患者を6ヶ月前向きに追跡し、その中で発生した704件のグラム陰性桿菌菌血症におけるフルオロキノロン系、非カルバペネム系抗緑膿菌βラクタム系、カルバペネム系の薬剤に対する耐性菌の割合を分析した。同種造血幹細胞移植後の患者でフルオロキノロン系の薬剤を予防的に投与した群と予防的投与を行わなかった群では、フルオロキノロン系薬剤耐性菌の割合が79% vs 50% (p<0.001)と、予防的投与を行った群で優位に高かった。
以上より、同種造血幹細胞移植後の慢性GVHDの背景がある患者への抗菌薬の予防的投与は、肺炎球菌をターゲットとした投与については有効であり、その際はペニシリンを第一選択としつつ、その地域の薬剤耐性菌のパターンに応じて抗菌薬を選択することが肝要であることが分かった。また耐性がある場合でもペニシリンの予防投与は敗血症の重症度を軽減する効果を示唆する。一方でその他の薬剤の予防的投与の有効性を示す論文を見つけることはできなかった。またフルオロキノロン系の薬剤については予防的投与を行なった群で耐性菌の出現割合が優位に高く、慎重に投与すべきであることが分かった。
参考文献
(1) Guidelines for Preventing Infectious Complications among Hematopoietic Cell Transplant Recipients: A Global Perspective. Biol Blood Marrow Transplant. 2009 October ; 15(10): 1143–1238.
(2) Samar Kulkarni, Ray Powles, Jennie Treleaven, et al. Chronic graft versus host disease is associated with long-term risk for pneumococcal infections in recipients of bone marrow transplants. Blood 2000. 95:3683-3686.
(3) Diana Averbuch, Gloria Tridello, Jennifer Hoek, et al. Antimicrobial Resistance in Gram-Negative Rods Causing Bacteremia in Hematopoietic Stem Cell Transplant Recipients: Intercontinental Prospective Study of the Infectious Diseases Working Party of the European Bone Marrow Transplantation Group. Clinical Infectious Diseases. Volume 65, Issue 11, 1 December 2017, Pages 1819–1828.
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