人工血管感染の治療期間はどのように設定するか
〈序論〉
人工血管感染(VGI)XXの治療期間は何を基準に決定すべきか興味を持ち調べた。
〈本論〉
VGIは感染の及ぶ範囲によりSamson分類Ⅰ~Ⅴに分けられる1)。アメリカ心臓協会(American Heart Association, AHA)による声明では、Samson分類によりVGIの治療方針が推奨されている2)。Samson分類はそれぞれ、クラスⅠ:感染が表皮より深部には達しないもの、クラスⅡ:感染が皮下に及ぶが人工血管本体には達しないもの、クラスⅢ:感染が人工血管本体に及ぶが吻合部には達しないもの、クラスⅣ:感染が吻合部に及ぶが菌血症や吻合部出血は来していないもの、クラスⅤ:感染が吻合部に及び敗血症や吻合部出血の経過があるものと定義されている。AHAにより推奨されているVGIに対する抗菌薬の投与期間は以下の通りである。クラスⅠまたはⅡの患者の場合、外科的デブリドマンの有無に関わらず2~4週間の抗菌薬投与が推奨される(エビデンスレベルⅡa; 推奨グレードB)。クラスⅢまたはⅣの場合、術後4~6週間の抗菌薬投与(Ⅲ;B)の後、6週間~6か月の経口抗菌薬投与が推奨される(Ⅲ;B)。クラスⅤの場合、術後4~6週間の非経口抗菌薬投与の後、最低6か月の経口抗菌薬が考慮される(Ⅲ;B)。クラスⅡ、Ⅳ、Ⅴにおいて、MRSA、シュードモナス、多剤耐性微生物、真菌による感染の場合、グラフトが残存している場合、グラフト周囲に広範囲の感染がありながら再建した場合、あるいは再手術が見込めない場合には、長期間の抑制的抗菌薬療法が考慮される(Ⅱb;B)。
〈結論〉
VGIの抗菌薬治療は、感染が及ぶ範囲により定義されたSamson分類をもとに推奨される治療期間が定められていると分かった。しかしその期間には6週間~6か月など大きく幅があるものもあり、実際の投与期間の判断は現場に委ねられる。また長期間の抗菌薬投与は有害事象や耐性菌発生のリスクにもなるため、有効性が認められない抗菌薬は速やかに終了すべきである。患者の臨床症状や生物学的マーカーの改善、各種検体培養の陰性化などを総合的に考慮し、個別の治療期間を決定することが望ましい。
〈参考文献〉
1. Samson RH, et al. A modified classification and approach to the management of infections involving peripheral prosthetic grafts. J Vasc Surg.1988:8:147-153
2. Walter R. Wilson, et al. Vascular Graft Infections, Mycotic Aneurysms, and Endovascular Infections.Circulation.2016;134:e412-e428
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