人工呼吸器関連肺炎で発症時期による起因菌の違いは見られるか?
【序論】
人工呼吸器関連肺炎(VAP)は重要な院内肺炎の1つであるが、その発症時期によって起因菌に違いが見られるかどうか疑問に思ったため以下に考察する。
【本論】
人工呼吸器関連肺炎(VAP)を引き起こす病原体は様々で、JANISの院内感染対策サーベイランスでは緑膿菌が14.2%で最も多く、次いでMRSA、肺炎桿菌、MSSA、Enterobacter cloacaeであったと報告されている。1)ただこれは発症時期による区別はなされていない。
David R Parkの論文では、人工呼吸器を装着してからVAP発症までが4日以内をearly-onset VAP、4日以降の発症をlate-onset VAPとし、単一施設で267人の患者から検出された様々な病原体をどちらの時期でどの程度見られたかをまとめている。その結果、肺炎球菌、インフルエンザ菌、MSSAなどはearly-onset VAPで多く見られ、MRSA、緑膿菌、肺炎桿菌、アシネトバクターなどはlate-onset VAPで多く見られていたことが分かった。ただ、early-onset VAPでも15%ではMRSAや緑膿菌などの薬剤耐性を持つ菌種が起因菌となっていて、これらは以前の抗菌薬治療や入院期間も関連していると述べられていた。2)
また、Restrepo MIらの論文では、2つのopen label studyを用いてearly-onset VAPとlate-onset VAPの疫学的特徴を比較した。496のサンプルに対して、検出された病原体は上記の論文とほぼ同様で、グラム陰性菌ではインフルエンザ菌や緑膿菌、肺炎桿菌などでグラム陽性菌ではブドウ球菌や肺炎球菌などが見られた。結果として、グラム陰性菌はearly-onsetよりもlate-onsetで多く検出されることは統計学的に有意であった。また個々の検出された病原体の中でearly-onsetとlate-onsetに統計学的に有意差が見られたのは黄色ブドウ球菌(MRSAを除く)のみで、黄色ブドウ球菌はearly-onset VAPで多く見られた。その他、MRSAや緑膿菌、肺炎桿菌などでは割合としてlate-onsetの方が多いものの、統計学的な有意差は認めなかった。3)
【結論】
今回の2つの論文から言えることは、early-onset VAPではインフルエンザ菌やグラム陽性菌(特に黄色ブドウ球菌)が、late-onset VAPではMRSAや緑膿菌、肺炎桿菌などの菌種が割合としては多く見られるが、有意差を認めるものはほとんど無いため、たとえearly-onset VAPでも緑膿菌などを起因菌として除外はできず、起因菌の推定には患者個人ごとの過去の抗菌薬治療や入院期間などの考慮も必要ということである。今後はそのような因子も含めた研究が行われれば、起因菌の推定に寄与すると思われる。
【参考文献】
1) 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS) –公開情報 集中治療室部門 2018年1月∼12月年報.
Available from: https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2018/3/3/ICU_Open_Report_201800.pdf
2) Park DR. The microbiology of ventilator-associated pneumonia. Respiratory Care 2005 Jun;50(6):742-63.
3) Restrepo MI, Peterson J, Fernandez JF, Qin Z, Fisher AC, Nicholson SC. Comparison of the bacterial etiology of early-onset and late-onset ventilator-associated pneumonia in subjects enrolled in 2 large clinical studies. Respiratory Care 2013 Jul;58(7):1220-5.
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