MRSAを起因菌とする敗血症性肺塞栓症の治療にダプトマイシンは推奨されるか?
【序論】XXXMRSA菌血症による感染性心内膜炎(IE)および敗血症性肺塞栓症(SPE)を発症XXX、SPE合併時における役割に関しては議論のあるダプトマイシンについて、SPEにおける推奨度を考えた。
【本論】ダプトマイシンはマウスの人工肺塞栓モデルでは効果的であった。また、IEを含むMRSA菌血症患者を対象としたファウラー研究についてIEおよびSPEの患者群を具体的に評価した事後分析においては、ダプトマイシン群と比較群で治療の成功率に大きな差はみられなかったが、ここに含まれるSPEの患者は少なく、SPE合併時に関しての情報はあまり得られなかった。SPE患者4人をダプトマイシンとリファンピシンで治療した報告では、すべての患者が最初バンコマイシンで治療され、菌血症の遷延または白血球減少のためダプトマイシンおよびリファンピシンでの治療に変更された。その後2〜3日で菌血症は消失し4人の患者はすべて臨床的寛解を得たが、1人が退院後死亡した。しかしこれは感染症が原因ではないと考えられている。またMSSA菌血症にてIEおよびSPEを発症した33歳の妊婦は最初セファゾリンで治療され3週間で血液培養は陰性化したが炎症マーカーは上昇し、4週目に喀血と胸痛を訴え悪化した。ダプトマイシンに変更して合計7週間治療され、炎症マーカーと心エコー像は正常化したが、SPEの転帰については明記されていない。また、MRSA菌血症による86歳のIE患者でダプトマイシンとリファンピシンの治療中に新たな肺空洞病変を認めた例もある。他に73歳男性のMRSA菌血症とSPEの患者でダプトマイシン開始後に大量胸水による呼吸不全を発症した。また24歳の女性でMRSA菌血症、IE、SPEの患者ではダプトマイシン開始後6日で菌血症は改善したが肺空洞病変が出現した報告もある。以上のように、治療に成功した例もあるとはいえ重篤な肺病変を合併した報告もあることを踏まえると、MRSA菌血症におけるIEに合併したSPEの治療において、ダプトマイシンは、積極的な選択肢というよりはバンコマイシンなどの他の薬剤が使えない条件下で初めて使用を検討する最後の選択肢といった役割が適当であると考える。SPE合併例に限定しないMRSAによるIEではダプトマイシンの投与は推奨されている。この点について、ファウラー研究においてMRSAによるIE患者の半数近くがSPEの病態を合併していたことを考えると、他のMRSAによるIEにおけるダプトマイシンの使用が有効だとする臨床研究や症例報告も推奨度の考慮に入ると考えられる。
【結論】一つの問題としてMRSA菌血症によるSPEにおけるダプトマイシンの使用に関して、規模の小さい試験あるいは症例報告しか得られていないことがこの薬剤の推奨度を考える上で課題といえる。現時点の結論としてはMRSA菌血症において、ダプトマイシンはIEの治療においてはバンコマイシンに次いで推奨されるが、SPE合併時の治療においては積極的に選択していくべき薬剤というよりはバンコマイシンなど他の薬剤が使えない条件下で初めて使用を検討すべき薬剤であると考えられる。 参考文献:Ryan L. C, Kelsey L. P. “Daptomycin for the treatment of Staphylococcus aureus infections complicated by septic pulmonary emboli” Diagnostic Microbiology and Infectious Disease, Volume 93, Issue 2(February 2019): 131-135、ハリソン内科学 第5版 p840-851
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