書評「医療現場のための薬物相互作用リテラシー」
転載許可もらいましたのでブログにも。
肝移植患者が冠動脈疾患のために循環器内科に入院した。発熱がみられるが、血液培養でカンジダが検出された。血管内カテーテルから感染した真菌感染だ。主治医は慣れない抗真菌薬を用いねばならない。しかし、これまた慣れない免疫抑制剤との相互作用にも配慮せねばならない。「普段の知識」、抗血小板薬やβブロッカーや利尿薬などなどなど、、、であれば自在に使いこなせたはずが、なんとも患者が複雑化する世の中よ、、、嘆息した循環器医だが、困っているのは彼だけではない。すべての領域のすべての医療者がこうした問題と直面するのが超高齢化している令和の時代なのだ。
薬物相互作用(DDI)は臨床的に非常に重要な概念であり、すべての臨床医が強く意識していなければならない問題だ。にもかかわらず医学部時代、あるいは医師になってからこの問題をちゃんと勉強していないケースは非常に多い。すべての薬剤師、医師、そして看護師などもきちんと勉強すべきなのだが、手頃なテキストがないのが悩みの種であった。
本書はこうした医療者にピッタリなテキストだ。是非一読をオススメしたい。
薬物相互作用研究は年々進化している。比較的シンプルだった肝代謝酵素(CYP)のみの理解では到底足りず、肝トランスポーター、腎、消化管など様々なコンパートメントに多様なメカニズムでの薬物相互作用が発生することが分かり、その世界観の深さと広さに怖気づいてしまう。加えて、新たな医薬品がどんどん開発され、把握すべき相互作用は増える一方だ。人生百年時代に慢性諸疾患に用いる医薬品の組み合わせをどう最適化するか、これまでのようにセグメントの問題ごとに薬を足していく、といったシンプルな投薬戦略はとうてい通用しないだろう。
本書は三部立ての構成になっている。第1章は薬物相互作用の基礎理論のテキストで、ここで我々はこの領域の基本的学習を行う。第2章はCR-IR法とPISCSだが、両概念は私には初耳で、正直ここで説明するだけの力もない。第3章は各論編、かつ実践編であり、具体的にこういう薬のどういう相互作用に、どう対応するかが述べられている。非常に勉強になり、かつ非常に実践的な構成になっている。
さて、こうして本書で学びを得た我々は相互作用を気にすることなく自由に投薬できるだろうか。
もちろん、そうではない。本書でも指摘されているように、既知の薬物相互作用は存在する薬物相互作用の全てではない。未知の、これから発見されるであろう相互作用の存在は当然あるに決まっている。本領域の進歩がそれをほぼ証明する。過去から現在に増大した学知は、未来にさらに大きな学知を得ることを暗示している。開発されたばかりの新薬ならばなおさらだ。
よって、我々は本書から「今ある知識」を学ぶのみならず、例えば、「効果が同じならば相互作用の情報が大きい古い薬を新薬に優先させるべきだ」といったメタな知性も獲得すべきなのだ。本書からの学びには多数のレイヤーがあるということだ。
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