“ST合剤はうつ病を増悪させるのか”
【ST合剤とは】
〈薬理作用〉
ST合剤とはスルファメトキサゾールとトリメトプリムの併用療法のことである。
細菌が自ら葉酸を合成する過程において、前者はジヒドロ葉酸を作るのに必要な酵素を阻害し、
後者はテトラヒドロ葉酸に活性化する酵素を阻害することで細菌のDNA複製を阻害する。
〈効果がある疾患〉
1.ニューモシスチス肺炎 2.尿路感染症 3.セフェム系耐性の皮膚・軟部組織感染症
〈副作用〉
1.皮膚症状 2.消化器症状 3.血小板減少症、無顆粒球症
【ある症例について】
72歳女性が切迫感、排尿障害、腰痛、発熱、悪寒、悪心、および1週間の嘔吐を主訴に受診した。
尿試験紙法で異常が見られた。病歴としては約3年前に尿路感染症を患い、シプロフロキサシンで治療され合併症はなかった。また、以前に大うつ病性障害と診断され、過去4年間セルトラリン75mgで安定していた。
尿路感染症の治療のためトリメトプリム-スルファメトキサゾール160mg/800mgを1日2回5日間処方された。その後過度の心配、感情の不安定、夫へのしつこさ、夜間の睡眠時間が3〜4時間の不眠症を伴う極度の不安を訴えた。これらの症状はトリメトプリム-スルファメトキサゾールの投与開始2日後に現れた。また、落ち込んだ気分、無快感症、しばらく泣き止まない、疲労、食欲減退を訴えた。そして、精神科病院への入院となった。セルトラリンの用量は75mgから100mgに増加し、トリメトプリム- スルファメトキサゾールは中止され、そしてセフトリアキソンが開始された。結果、彼女の不安と鬱病はトリメトプリム-スルファメトキサゾールの中止後すぐに改善した。
【結論】
このように不眠症、振戦、うつ病、パニック発作、幻覚などのトリメトプリム-スルファメトキサゾール誘発性神経精神障害の症例報告がいくつかある。トリメトプリムは腎臓クレアチニン排泄を阻害し血清クレアチニン高値を起こし、また、ジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害してドーパミン産生の減少を引き起こす。この結果、パーキンソン病の症状を引き起こす。ST合剤の中枢神経系(CNS)毒性の正確なメカニズムはわかっていないが、このような腎臓クリアランス障害とCNS浸透性が原因ではないかと考えられている。臨床医はST合剤による不安および鬱病の潜在的な悪化を認識しておくべきである。
参考文献:
Prim Care Companion CNS Disord. 2018 Aug 9;20(4). pii: 17l02224. doi: 10.4088/PCC.17l02224.
Trimethoprim-Sulfamethoxazole-Induced Exacerbation of Anxiety and Depression.
Naveed S, Chidharla A, Aedma KK.
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