放射菌属による感染性心内膜炎の治療において適切な抗菌薬の投与期間はどのくらいか?
【序論】
感染性心内膜炎は様々な菌が起因菌となるが、治療方針は起因菌ごとに決定されるべきである。最も頻度が高いのは黄色ブドウ球菌であり、放射菌によるものはまれであるが、患者の血液培養より検出されたのはActinomyces odontolyticusであったため、放射菌属による感染性心内膜炎の治療において適切な抗菌薬の投与期間を検討することにした。
【本論】
放射菌Actinomyces属はグラム陽性桿菌で、口腔内細菌叢の構成菌である。これを原因菌とする感染症として放射菌症がある。多くの抗菌薬が有効であるが、第一選択薬はペニシリン Gである。重症感染症における治療は、1800万~2400万単位のペニシリンを2~6週間静脈内投与したあとに、ペニシリンもしくはアモキシシリンによる経口治療を行うこと(全治療期間6~12ヶ月)が妥当な指針である。
感染性心内膜炎の抗菌薬治療では、疣贅にあるすべての細菌を殺菌することを目標とする。したがって、殺菌性の抗菌薬を長期間投与する必要があり、また疣贅の深部で抗菌薬の効果的な濃度を得るために血中濃度を高くする必要があり、一般的に非経口的に投与される。抗菌薬の投与期間は、ガイドラインでは4~6週間が推奨されているが、これは血液培養が陰転化してからの期間とすることが推奨される。抗菌薬治療開始後は、48~72時間を目安に、血液培養を提出し、バイタルサインや自覚症状、身体所見、検査データや画像所見に基づき総合的に効果判定を行う。
放射菌属を起因菌とする感染性心内膜炎の症例報告では、ペニシリンアレルギーのある患者対し、バンコマイシンによるエンピリック治療の後、セフトリアキソン4週間、エルタペネム12週間の静脈内投与後、12ヶ月のアモキシシリン経口投与で治癒した例や、腹部放射菌症から血行性に心内膜炎をきたした患者に対し、ペニシリンG、セフトリアキソン、メトロニダゾールを含む広域抗菌薬を4週間静脈内投与した後、ペニシリンGとイミペネムを30日間経口投与し治癒した例などがあった。
【結論】
放射菌属による感染性心内膜炎はまれであることからか、適切な抗菌薬やその治療期間について明記されている文献を見つけることができなかった。ただし、放射菌症、感染性心内膜炎の療法において抗菌薬治療の目標は原因菌を殺菌することであると考える。したがって、放射菌属による感染性心内膜炎の治療において適切な抗菌薬の投与期間は、ペニシリンGの4~6週間の静脈内投与後6~12ヶ月のペニシリンもしくはアモキシシリンの経口投与が妥当であると考える。
【参考文献】
松本哲哉,舘田一博,『リッピンコットシリーズ イラストレイテッド微生物学 原書3版』丸善出版,2014
福井次矢,黒川清,『ハリソン内科学』第5版, メディカルサイエンスインターナショナル
日本循環器学会『感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)』, 2018
Cortes CD, Urban C, Turett G. Actinomyces naeslundii: An Uncommon Cause of Endocarditis. Case Rep Infect Dis. 2015,
Kottam A, Kaur R, Bhandare D, Zmily H, Bheemreddy S, Brar H, Herawi M, Afonso L. Actinomycotic endocarditis of the eustachian valve: a rare case and a review of the literature. Tex Heart Inst J. 2015, Vol. 42, No. 1, pp. 44-49.
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